「目指すのはオープンなWebです。ひとりひとりが自由に選択して参加してもらいたい」。Biz.ID主催のブロガーイベントで、Mozillaのジョン・リリーCEOはそう語った。Mozillaの目的は「Change the World」なのだという。
「我々が目指すのはオープンなWebです。人々が自分で選択することによって、ひとりひとりがWebに参加してもらいたい」。6月25日、Biz.ID主催のブロガーイベントで、米Mozilla Corporationのジョン・リリーCEOは集まったブロガー達にそう語った。
Mozilla Corporationは営利組織ではない。欧州では同製品のブラウザシェアが50%を超えている国もあるが、Firefox自体を普及させるのが目的ではないというのだ。
その根幹にある考え方は「オープンソース」だ。「以前はブラウザ戦争と呼ばれるものが確かにありました。そしてNetscapeは敗れ、Internet Explorerが市場を席巻しました。しかし現在、Webは人々の生活にあまりにも強く結びついています。特定の1社がその技術を独占することはあまり良くないのではないでしょうか」
ソースを公開することによって、誰もが自分たちで好きな製品を作れればいいとリリー氏は思っている。同氏が現在懸念しているのは動画やアニメーションの規格だ。「これから動画やアニメーションはWebのコンテンツとしてどんどん重要になっていくでしょう。そう考えるとFlashのように1社が規格を独占してはいけないと思う」
そうした背景を踏まえ、Firefoxの次期バージョンではオープンソースの考え方のもとに動画やアニメーションを再生する仕組みを搭載しようとしている。「video」タグを実装し、どこか1社が独占するプラグインなしに動画再生が可能になるという。
「こうしてみんなで決めていくことが必ずしも最善ではないにせよ、多くの人にとってだいたい良い結果を生むと考えています」。リリー氏はそうも語る。「もし、私達がやっていることが違うとあなたが感じたら、そう伝えてほしい。Mozilla Corporationではそのための仕組みを用意している」
実際、Firefoxの開発計画はすべてWikiで公開されている。何か言いたいことがあればWikiを編集すればいい。その考えが採用されればそれはそのままになるし、ほかの多くの人に反対されたら、ほかのアイデアで上書きされるだけである。
あるブロガーからFirefox 3の新機能について質問があった。「Firefox 3にはスマートロケーションバーという機能があります。これは過去の履歴から行きたいサイトにすぐいけるので便利ですが、検索エンジン経由のクエリが減るということを意味しませんか? 検索エンジンからの収入がこれで減ってしまう、と考えませんでしたか?」
この質問に関するリリー氏の回答は明確だった。「まず我々は非営利組織です。そして我々の目的はユーザーにとって便利なものを提供することです。スマートロケーションバーで確かにクエリは減るかもしれませんが、それに関する分析は一切していません。ユーザーにとって便利ならばそれでいい、というのが我々の基本的な考え方」
「我々はIPOを目指しているわけではないし、ベンチャーキャピタルから資金を得ようと思っていない、我々が目指しているのは『Change the World』、つまり今の世界を変えることなのです」
ブロガーからはFirefoxの次期バージョンについても何度か質問があった。そのいくつかの質問にリリー氏はこう答えた。「僕には分かりません」
Mozilla Corporationはオープンソースで動いているがゆえに誰か特定の人が決定を下すことがない。ある程度の決まりはあるが、最終的にはみんなの意見が反映されるようになっている。「もちろん難しいこともありますが、それが最終的にはみんなにとっていいことだと思っています」
「では、CEOの役割は?」。リリー氏はちょっと考えた後に「Mozilla CorporationにおけるCEOの役割は『人々がコミュニケーションをうまくとれるようにすること』だと思う。社内でも社外でも、何かを作り上げるのに必要な人を集めてコミュニケーションをとりやすくしてあげることが大事です。そうすれば自然とみんなが方向性を決めてくれますから」
「CEOといっても何も知らないのですよ」とリリー氏。「CEOという役職は歴史的に過大評価されすぎだと思います。僕がやっているのは、人々が自分たちで意思決定できるようにサポートしているだけです」
「Firefox 3ではダウンロード数でギネス記録を目指しました。これは過去5年間で見ても、iPhoneの発表を除けば、かなり大きなイベントだったのではないでしょうか。世界中の人が協力してくれて大きな記録を成し遂げることができました。そして重要なのは我々はこのイベントにほとんどお金をかけていないということです」
素晴らしい製品を作って、みんながそれに参加できるようにすればいい――インターネットを使って世界を変えるにはどうしたらいいか、リリー氏の考え方は実にシンプルなものだった。
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