震災後の死活問題は食料。それと同じくらい切実なのがトイレ事情だ。水で流せない状況下でも、排泄物をサラサラの粉末にしたり、まるごと自動でパッキングしたり――イマドキの非常用トイレをあれこれ見ていこう。
仕事中に大地震――。社内でのサバイバル生活を余儀なくされたら、食料が必要だ。そして食べれば排泄がやって来る。食べる行為と排泄行為は常にセットなのだ。
ところがライフラインが止まっているため水洗トイレは使えない。そうはいっても排泄物は出る。日ごとこえだめ状態になるトイレの悪臭や、汚物まみれの便器は、心身の衛生上よくない。さらに、ストレスフルなトイレに行くのをギリギリまで我慢すれば、特に女性の場合は膀胱(ぼうこう)炎など、思わぬ病気を引き起こす場合もある。
こうした深刻な問題を解決してくれるのが、非常用トイレ。イマドキの非常用トイレは悪臭を抑えるのが特徴だ。排泄物を固める、自動パッキングする、悪臭元の菌の増殖を抑える、粉末状に変えてしまう――など、水を使わずさまざまな方法で悪臭を抑え込む。あるとないでは、物理面はもちろん、従業員のストレス面が大きく違ってくる非常用トイレをあれこれ見ていこう。
最新のものでは、工事現場の機材などを扱う日本セイフティーの「ラップポン」(18万円〜)というトイレがある。
これは排泄物をまるまる自動的に「ラップ」してパッキングし、パッキングした袋ごと「ポン」と便器下から出す移動式のトイレだ。本体は約16キログラムとかなり重いが、折りたたむとアタッシュケース大(幅440×奥行き460×高さ270ミリ)になり、片手でも持ち運べるようになっている。足を出すなどの簡単な組み立てをして、電源(消費電力350ワット)を確保したら、すぐ使うことができる。
使い方は簡単だ。まず排泄した後に、セットになっている「カタメルサー」というラベンダーの香り付きの大豆固形物を振り入れる。
すると、このカタメルサーは乾燥したおからのように、排泄物の水分を吸収する。
カタメルサーを入れ終わったら、稼動ボタンを押す。70〜80秒ほど待つと、床に敷いたトレイの上に、排泄物をまるごとパッキングしたポリエチレン製の白い袋がポトリと出てくる。
これがパッキングした袋。色が白いからスーパーのレジ袋のようにも見える。あとは、袋ごと可燃ゴミとして捨ててしまえばいい。
この袋は、もともと「フィルムロール」といって、ソーセージの腸のように筒状に長くつながっている。腸に詰める肉の部分が排泄物に当たる。排泄後に稼動ボタンを押すと、筒状ロールの上下を熱で溶かし、1回分をパッキングするのだ。1ロールで50回分使える。
フィルムロールの厚みは40マイクロメートルと、触った限りではずいぶん薄い。だが、消臭層などを含む5層構造になっており、匂いも中身も外には漏れず、大豆の発酵による破裂もないという。
日本セイフティーは2007年の能登半島地震など、これまでボランティアで何度もラップポンを提供している。こうした非常時だけでなく、日常でも、仮説トイレを設置できない地下深くの工事現場や、介護施設など、さまざまな現場で使われている。
ラップポンは、もともと「使用者自身だけでなく、介護する家族などの負担を減らそう」という目的で、介護施設用に開発された。
そのため凝固剤は、認知症患者などが誤って食べても人体に影響しないよう、100%大豆で作ったのだ。オムツなどに使われる高分子吸収ポリマーに比べて大豆の水分吸収力は低いが、それでも十分に水分を吸収できるという。
現行のラップポンは電源を入れないと自動処理できないため、今後は、電源の引けない現場用で使えるよう、アタッシュケース状のソーラー電源も開発中だ。なお現行モデルで電源が引けない場合は、自動的にラッピングする機能は利用できないが、手動のポータブルトイレとしては利用可能だ。
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