やり方を教える是非を問う前に、そもそも、「やり方」とはどういうものかを考えてみましょう。大辞林によるとやり方とは「物事をする方法、手段、しかた」とあります。これを私なりに解釈しますと、やり方とは、
・「スタート状態」から「ゴール状態」へと変化させる手段や方法
ではないかと考えます。
例えて言うなら、「半紙と墨汁がある状態」から「半紙に『いらっしゃいませ』と書いてある状態」に変化させる方法として「筆を使う」というやり方が選ばれる訳です。つまり、「スタート状態」と「ゴール状態」が明確になっていない限り、適切なやり方を選ぶことはできないわけです。
ところが、すぐにやり方を教えようとしてしまう人たちには、「このスタートとゴールの状態が、教える側も教わる側も不明瞭なままやり方を教えてしまう」というケースが目につくのです。
これの何が問題なのか。2つあります。
1つは、「スタートもゴールも不明瞭な状態では適切なやり方を提供できない」という問題。例えて言うなら、半紙はあるが墨汁がない状態だということを認識しない状態で、筆を渡して「字を書け!」と言ってしまうようなもの。墨汁がなければ字は書けませんし、もし墨汁があったとしても何を書いて良いのか解らない状態なのですから、これでは、やり方を教えてもうまくいくはずがありません。だから教える側の人間は、やり方を教える前に、まずは「スタート状態」と「ゴール状態」をきちんと明確にしなければいけないのです。
もう1つは、教わる側の問題。「スタートとゴールの状態を明確にしなければ、学ぶ動機付けが明確にならない」ということです。例えば、先ほどの例でいうならば、「なんか書いとけ!」というぶっきらぼうの一言と一緒に、筆を一本渡されたとしたら、どう思うでしょうか。一体自分が何をしたらいいのか解りませんよね。
こういった、「教えた気になってはいるが、何も教えたことになっていない状態」が、かなり頻繁にビジネスの現場で起きていると思えてならないのです。では、部下に対して一体どうやってやり方を教えたらいいのでしょうか?
部下を本当の意味で成長させたいのであれば、部下にやり方を教えるという方法はお勧めしません。一番理想的なのは、
ということを、繰り返す方法です。
実は、ゴールに到達するやり方は自分自身で見つけ出せます。重要なことは、部下が自分自身の現状をきちんと認識し、そこから大きくかけ離れたものでなく、手が届きそうなゴールを設定すること。こうしたことを繰り返すことで、特にやり方を教えなくても、自分なりのやり方を作り出せるようになり、そうなったらあなたは、ゴール状態を部下にしっかり伝えることで、あとは部下達が勝手にやり方を生み出して答えを出してくれるでしょう。
これは、皆さんよくご存じであろう「PDCAサイクル」そのものであります。PDCAとは計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のプロセスを順に実施し、最後のActを次回のPlanに結び付けるプロセス。品質の維持・向上や継続的な業務改善活動を推進するマネジメント手法でして、上記の(1)がPlan、(2)がDo、(3)がCheck、(4)がActに相当するわけです。
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