第19回 「量感」を身につけるための“メンタルモデル”ってなんだ?実践! 専門知識を教えてみよう(1/4 ページ)

サッカーのペナルティエリアの面積は何坪でしょう? すぐに分かる方、いますか。こうした「量感」を身に付けるために大切なことが、現実世界と表象と“メンタルモデル”の連携なのです。

» 2008年10月21日 18時15分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

 まずはこの問題を考えてみてください。

サッカーのペナルティエリアの面積は、次のどれに近いでしょうか。

(1)10坪(2)50坪(3)100坪(4)200坪

 これは最近私がエキサイトニュースで見かけた「計算力はあっても『量感』のない私たち」という記事で紹介されていたものです。正解は(4)の200坪。

 大元の出題者である東洋館出版社の川田龍哉氏によると、今の子供達の弱点を象徴するような問題だといいます(ただし大人でもほとんど間違えるそうですが)。

 さて、上記の問題なら分からなくても無理はないと思いますが、同じ記事で紹介されている次の問題で小学6年生の正答率が17.8%というのはなかなか聞き捨てならない状況です。

 約150平方センチメートルの面積のものを、下の選択しから1つ選んでください

(1)切手1枚の面積(2)年賀はがき1枚の面積(3)算数の教科書1冊の面積(4)教室1部屋の面積

 この問題でさすがに(1)を選んだ人は1%程度だといいますが、約50%は(3)を選び、約30%は(4)を選んでしまい、正解の(2)を選んだのは2割に満たない数しかいなかったわけです。いったいこれはどういうことなのか、今回はこれを考えてみたいと思います。

現実世界と表象とメンタルモデルの連携が取れていなければならない

 まずは図1をご覧ください。

 いきなり「表象」というわけの分からない用語が出てきましたが、「うわ、難しそう」とは思わないでください。ここでは「要するに、書かれたコトバのこと」と思ってもらって大丈夫です。例えば、

  • リンゴ

 と書いてあったとすればそのカタカナ3文字が、現実世界に存在する甘くておいしいリンゴの「表象」なのです。表象の代わりに「記号」と呼ぶ場合もあります(厳密には「書かれた言葉」とは限らないのですが、この記事は認知心理学の論文ではないのでそこは追求しません)。

 人間は、他人との情報伝達や自分自身の思考のためにさまざまな「表象」を使います。その「表象」は、現実世界の何かを切り取って抽象化して表現しています。例えば「リンゴ」の3文字は、現実世界のリンゴの品種が「ふじ」だろうと「デリシャス」だろうと「紅玉」だろうと使えます。腐ったリンゴにも未熟なリンゴにも使えます。それら細部の違いを切り捨てた「表象」が「リンゴ」の3文字なわけです。

 一方、表象がその役割を果たすためには、そのコトバを使う人間の脳内に、現実世界に対応する「イメージ」が喚起されなければなりません。「リンゴ」というコトバを見たときに、単にその3文字が「読める」だけでなく、現実のリンゴのイメージがある程度浮かんでくるようでなければ、表象としては役に立たないわけです。このイメージこそがメンタルモデルなのです。

 以上をまとめると、「現実世界と表象とメンタルモデルの連携が取れていないければならない」となりますが、さて、果たして実際にはその連携は取れているのでしょうか?

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