第19回 「量感」を身につけるための“メンタルモデル”ってなんだ?実践! 専門知識を教えてみよう(4/4 ページ)

» 2008年10月21日 18時15分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

目をつぶってイメージを広げよう

 では具体的に「メンタルモデルの操作能力のトレーニング」の例としてどんなものが考えられるのかをご紹介しましょう。いずれも基本的に私が子供時代の体験であり、「当時は趣味に熱中していただけだが、今振り返ってみればそのトレーニングになっていた」という種類の活動です。

その1:銀河系に想像の羽を広げる

 小中学生のころの私はフィクション・ノンフィクションを問わず「宇宙」ネタが大好きで、天体写真集や天体物理学の入門書、あるいはスペースオペラ系SFなど、その手の本を手当たり次第に読みふけっていたものです。

 それであるときやってみたのが、「自分→日本→地球→太陽系→近隣恒星群→銀河系」と、次々とイメージを広げてみる、ということでした。最初はうまく行かなかったんですが、やればできるものです。次々とイメージを広げていったとき、最後には「銀河系」から「自分」まで、すべてを同時に観察することができました。

 脳内に展開した銀河系の姿はまさしく圧倒的な迫力であり、1人でちょっとした感動を覚えたものです。このようなイメージは脳内でしか作れません。どんな大画面を使おうと、映像にすることは不可能です。

その2:頭の中に将棋盤を作る

 同じころ私が熱中していたのが将棋です。将棋が強くなるためには、例えば3手先、5手先、7手先……の指し手を考えなければなりません。つまり、「現在の状況」から1手ずつ駒を動かしていったときに、数手先で生まれる「未来の状況」をイメージする必要があるわけです。これを頭の中だけでやらなければなりません。まさしくメンタルモデルの操作そのものなんですね。

 分かりやすいのはこの2つでしたが、そのほかにも私はだいたいどんな勉強をするときも「表象操作のパターンを覚える」だけでなく、自分の脳内にメンタルモデルを作りそれを自在に操れるようになることを目指して勉強していたように思います。

 というわけで私はこんな方法でメンタルモデルの操作能力を鍛えていたのですが、だからといって同じことを誰もがやるべきだ、と言いたいわけではありません。だいたい、銀河系だの将棋盤だの、こんな個人の趣味に依存する方法は同じ趣味を持っている者にしかできませんから。

 大事なのは、実は銀河系でも将棋盤でもなく、

  • 目をつぶってイメージを広げ、動かしてみる

 ことなのです。自分が今勉強している分野で教科書に書かれていることを読んで覚えようとするのではなく、情報のインプットをいったん遮断して、既に自分が知っていることだけでイメージを作って脳内で動かしてみましょう。最初のうちはなかなかできないはずです。でも、めげずに何度も試してみてください。

 と、ここまでの記事を読んで「自分でやってみる」人についてはそのままでいいのですが、「教える立場」に立ったときには、「本人の自主性にまかせる」と称して放置するわけにもいきません。指導者としては、これができるように仕向けてやらなければなりません。

 私の場合はたまたま無意識のうちにやってしまっていましたが、それは単にラッキーだっただけであり、おそらく多くの子供についてはそれは期待できないのです。指導者が意識的にそのトレーニングをする必要があります。そしてこれは実は大人に専門知識を教える場合でも同じなのです。次回は引き続きこの点について検討することにしましょう。

お知らせ

 当連載でここまで扱ってきた「専門知識を教える技術」についての本が出版されました! 書名は『ITの専門知識を素人に教える技』(Amazon.co.jp)です。

筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『図解 大人の「説明力!」』


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ