「経費精算が大好き」なワタシになるのだシゴトハッカーズ(3/3 ページ)

» 2008年11月20日 12時50分 公開
[大橋悦夫、佐々木正悟,ITmedia]
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「面倒なこと」を面倒がらずにできる人の心理

 対談で、大橋さんは「経費精算が大好き」とおっしゃいましたが、面倒でためてしまう人の方が、おそらく一般的でしょう。

 とすると、なぜ大橋さんのように、一般に面倒とされていることを、喜々としてやることができる人がいるのか。気になるところです。

 そのヒントは、大橋さんの経費精算のやり方の中に隠れています。大橋さんはどうやら、経費精算のような「データ入力」を毎日やっているようです。「意志が強い」とか、「マメ」ととらえてしまうとそれまでで、そう考えては「大橋さんのような人たち」と「私たち」との間に、超えがたい溝を意識するだけに終わってしまいます。

 ここで、もう少しつめて考えてみます。そうすると、「私たち」も「経費清算が好き」と言えるようになれるかもしれません。

 なぜ大橋さんは、経費精算が好きなのでしょう?

 それは、快感だからです。

 では、なぜそんなものに快感を味わえるのでしょう?

 ここで「大橋さんの性格がそうだから」と考えるのはよくありません。それではまたしても「超えがたい溝」を作り出してしまいますし、だいたいそういった発想は、真実ではないからです。

 大橋さんが快感を覚えているのは、実は私たちが快感を覚える理由と一緒です。その理由とは、「何らかのデータを入力することで、全体の“模様”がめまぐるしく変わるのが興味深く、そして楽しく感じられる」からなのです。

 そんなのは、自分には当てはまらない、とすぐ思ってしまいそうですが、きっとそうではないはずです。人は、状況を把握するという感覚を好みます。動物は一般的にそうなのです。なぜなら、状況を把握している方が、していないものよりも、生存の可能性が高まるからです。

 それに、人間は自分という存在がどう振る舞うかを、知るのが好きです。必ずしも信頼できないことが分かっていながら、「自己分析」や「血液型占い」がああまで人を引き付けるのは、そういう心理があるからです。

 問題は、データを入力した結果、全体の模様が変化するのを見るのが快感だとしても、データ入力した直後には、たいした変化が生じるわけではないため、面倒な感覚だけが残るところです。ダイエットを始めたその日のうちから、1キロ、2キロと減量できれば、挫折する人はとても少ないでしょうが、実際には100グラムも減らなかったりするため、挫折してしまうのと同じです。

 しかしだからこそ、データ入力は毎日やるべきなのです。しかも、それによる「変化」に注目して、きちんと快感を得るべきなのです。そうすれば、入力による変化がいつも快感をもたらすという記憶が定着します。これは「条件付け」なのです。

 人が面倒だと思うことを、「マメ」に実行できる人は、このからくりを確実に利用しているだけなのです。それは「性格」や「意志力」というよりは、自分を「条件付け」するやり方とツボを、よく心得ているというべきでしょう。

筆者:大橋悦夫

大橋
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1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタルハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』、近著に『成功ハックス』がある。

筆者:佐々木正悟

佐々木
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心理学ジャーナリスト。専門は認知心理学。1973年北海道生まれ。1997年獨協大学卒業後、ドコモサービスに派遣社員として入社。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。著書に、『スピードハックス』『チームハックス』のほか『ブレインハックス』『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』『やる気ハックス』などがある。「シゴタノ!−仕事を楽しくする研究日誌」にて「心理ハック」を連載中。ブログ「ライフハックス心理学」主宰。


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