コーチングの研修初日、私はこのように話した。「人は褒められたり、感謝されたりするだけで、元気も勇気も湧いてくるものですよ」と。すると1人の受講者から「さっそく自宅で試してみました!」と報告してくださった。
労いや感謝の言葉、褒め言葉は大事だ」と習ったので、さっそく使ってみようと思った。その日はいつになく早く帰宅できたので、妻とともに食事をすることができた。ボクは食卓についていて、妻が準備してくれているのを待っていた。「感謝を述べるのは今だ!」と緊張しながら言ってみた。「いつもご飯を作ってくれてありがとう」。妻は、動かしていた手を止めてしまった。
なんとも感動的な場面である。私はすかさず質問した。
「奥さまは感動のあまり、泣いてしまったのですか?」
「いや、そうじゃないんです」
「では、なぜ固まって?」
「妻がお盆をテーブルに置いて、静かにこう言いました。『あなたは、なぜそれを棒読みで言うの?』と。……感情を込めたつもりだったのに、言い慣れていないから棒読みになっていたようです」
「それはまずい展開ですね。それでどうなさったのですか?」
「仕方ないので、研修で習ったから試してみた、と正直に告白しました。そしたら、妻が『無理しなくていいわよ』と苦笑いしまして……」
「カミングアウトしたのですね。でも、素直にお話しなさったのなら、奥様も納得したのでは?」
結局、それから「研修ではどんな勉強をしているのか」について夫婦で語り合ったらしい。
慣れない場合、「ありがとう」という一言でもこの例のように棒読みになることがあるようだ。でも、何度か口にしているうちに自然に言えるようになるはずである。だから、部下や同僚に「感謝する」なんて恥ずかしいなどと言わずに、誰彼となく、「ありがとう」と言い続けてみることが大事だ。
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