ところで、冒頭の「感謝されていないと嘆いていた女性」はその後どうなったか。
同僚に愚痴ってみたら、「そんなことないんじゃない? あなたの仕事はみんな理解しているし、感謝もしているよ」と何人かから言われたらしい。彼女は意外に思ったが、もしかすると自分が気づいていないだけで、ありがとうと言われているのかもしれないと思うようになった。そこで、ある実験をしてみたそうだ。
机の引き出しにノートとシールを入れておき、誰かに「ありがとう」と声を掛けられたら、ノートにシールを1枚貼ることにした。「ありがとう」と言われると、こっそりと引き出しを開けてシールを貼る。別の人に「ありがとうございました」と言われたら、また、こっそり引き出しを開けてシールを貼る。周囲から見ると何をしているんだろう? と不審がられたようだが、数週間続けてみると、彼女は“はっ”とする。
「1日10回以上『ありがとう』って言われている!」
今まで「誰もありがとうと言ってくれない」と気持ちが腐っていたけど、シールを貼ってみたら、たくさん言われていることに気付いた。
周囲から掛けられている感謝の言葉にアンテナが立っていなかっただけなんだな、と思ったというのだ。
ノートがシールだらけになった2週間後、彼女は「ありがとう」シールを貼るのをやめた。「ありがとう」という言葉をちゃんと耳でキャッチできるようになったからだ。
「感謝されていない、つまらない」と気分が腐っている人も、こうやって意識してみると、思っている以上に「ありがとう」と言われているのかもしれない。
ところで、「ありがとう」と言ってみたものの、相手が嬉しそうにしない、と思うことがある。言われた側も言われ慣れていないとどういう反応をしてよいのか戸惑い、つい硬い表情で応じてしまうことがあるものだ。実際には、誰かに「ありがとう」と心を込めて言われれば、誰だって嬉しく思っている。心の中でニヤリとしていることもあるに違いない。だから、相手の薄い反応にめげずに「ありがとう」を言い続けることが大事なんだろう。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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