仕事が山積みになったら、とにかく働き、いざとなったら週末も返上して仕事をすればよい――。もしこんな考えをもっているとしたら、それは間違っています。逆にさらに問題が生じるだけです。
多くの仕事をこなしたにもかかわらず、目の前にはまだ片付けていない仕事が山積み状態。どうすればよいか? 「深夜まで働き、週末も返上して仕事をすればよい」と考えたとしたら、それは間違っています。逆にさらに問題が生じるだけです。
最近関わっていたスタートアップ企業では、7日間で120時間も仕事をすることがありました。しかし、今思えば、あのとき誰かに「ちょっと休め」と言ってもらいたかった。なので、今回は「この仕事をすぐに片付けなければならないんだ」と言うのが口癖になっている人のために、私の経験から学んだことをお伝えします。
重要な締め切りの直前、プロジェクトの立ち上げ時、緊急のトラブル対応。初めての深夜残業や週末労働には、こうした理由があったことでしょう。自分がやらねばならない、という思いに突き動かされて仕事をし、目的を達成したときに得るものは「自分は会社の英雄だ」という満足感です。
しかし、自分が「会社の英雄」だと一度感じてしまうと、自分の働き方に大きな期待を抱くようになります。つまり、過去に成し遂げた仕事量を基準にして、仕事をするようになるのです。自分自身に対する期待に応えようとするあまり、頻繁に長時間の残業や週末労働をするようになります。
こうした「会社の英雄」的な存在が社内に増えると、ある問題が生じるようになります。子育てなどの事情で残業ができない、週末も働けない人に対して「怠けている」「一生懸命ではない」と感じるようになるのです。
「会社の英雄」を作り上げてしまうと、子育てなどの理由で全時間を仕事に投入できないスタッフが働きにくくなります。社内政治が生まれ、スタッフの不満や意見の相違が吹き出すようになるでしょう。
残業が日常化すると、ある仕事を達成するのに必要な日数を考える際に当然のように残業を計画に組み込んで見積もってしまうようになります。1日当たりに成し遂げられる仕事量の見積もりが多くなり、実際にそれを実行すると仕事量が多すぎてチームメンバーが燃え尽きてしまうのです。
深夜まで集中して仕事をしていると、なんとなく自分が深夜に「すばらしい仕事」をしていると感じてしまうことがあります。しかし、実際にはその仕事の質は低いことが多いです。
深夜まで熱中してプログラムを書き、翌朝げっそりした顔で職場に行って、メンバーと昨晩書いたプログラムを共有する。そこで発覚するのが、コードのエラーです。深夜1人での作業は、周囲に自分の仕事をチェックする人がいないため、ミスが起こりやすいのです。
私自身も経験があります。新しい機能を追加するために、深夜に数時間かけてプログラムを書いたにもかかわらず、その後チームメンバーが何日もかけてバグを修正したり、検証をしたりするはめになりました。深夜の残業は、バグの修正やチームに与える混乱といった副作用が大きいのです。副作用を考えれば、残業などせずに家で読書をしたりテレビを観ていたほうがずっとマシだったというわけです。
自分が「会社の英雄」だと思いながら仕事をしていると、いつか必ず、チームメンバーにも同様に週末を返上して仕事をしてほしいと期待する時がきます。「月曜の締め切りまでに間に合わせないといけないから!」などと理由を付けて。
これは非常にモラルに反している事態です。チームメンバーが対応できるレベルにも限界があることを遅かれ早かれ悟ることになるでしょう。メンバーに週末労働を課すことが多くなるような状況は、明らかに何かがおかしい状態です。このような状態が続けば、多くのメンバーが職場を去ることになるでしょう。どうしても週末の仕事が必要であれば、週末対応のスタッフを雇うなどすべきです。
ソフトウェア開発者は過労によってではなく、自分の作品が世に出ないことによって燃え尽きてしまうと、よく言われます。しかし精神面にとってさらに最悪なのは、緊急の仕事によって、予定をキャンセルしなければならない事態が連続することです。誕生日パーティーごとに、会社から緊急の呼び出しがかかるような事態です。
私自身、過去にそうした状況を経験し、私生活への妨害と緊急呼び出しの多い、長時間労働が根付いた会社文化に対する、懸念が強まりました。私生活に悪影響が出れば、あなた自身、そして会社に対しても悪影響が及ぶのです。
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