「真の欲求」というと、それを引き出すのはとても難しいように感じられるかもしれません。実は、「真の欲求」を聞き出す問いかけは極めてシンプルです。
「あなたが困っているのは何ですか?」(現状を確認する)
「あなたが望んでいるのは、本当は何ですか?」(真の欲求を聞き出す)
基本はたったこれだけです。
「現状を確認する」「真の欲求を聞き出す」ために必要な問いのパターンは、前回の相手に合わせて信頼関係を作る4つのステップでもお話しました。必要なのは「具体化」「抽象化」の2つだけ。後は、これらを応用したバリエーションでしかありません。
「現状を確認する」ために有効な問いは「具体化」です。「あなたが困っていることは何ですか?」から始めて、そこから、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」などの5W1Hや、「例えば?」「具体的には?」「他には?」などの問いで具体的にしていきます。
先ほどのドリルを例にすれば、「どのぐらいの板の厚みで」「どのぐらいの穴を開けたいのか?」のような問いです。具体化の問いは5W1Hのようなキーワードで覚えればいいので、簡単ですね。
「真の欲求を聞き出す」ために有効な問いは「抽象化」です。「抽象化」とは、人がさまざまな感情や思考を抱いたり、行動したりする意味や背景を明確にすることです。
人が感情や思考を抱く心理的な背景には、「何かを得たい」か「何かを失いたくない」という思いが必ずあります。そこで、「それが解決したら、何が得られる?」「それが続いたら、何を失う?」という問いが最もシンプルです。覚えにくかったら、「それによって、どうなる?」でもいいでしょう。
先ほどのドリルを例にすれば、「ドリルがあると、何が得られる?」「ドリルがないと、何を失う?」というような問いです。この例では「そんなの、穴を空けられないに決まってるだろう?」と思われるかもしれませんが、大切なのは、「相手が本当は何を望んでいるのか?」に気が付くこと。「穴を空ける」に気が付くことで初めて、「キリ」という新しい選択肢が出てくるのです。
これを図に示すと、次のようなイメージになります。
具体化とは、物事を細かくすることなので、具体化の問いをすればするほど現状が明確になっていきます。それはまるで、ブレイクダウンするように山の裾野を広げていくイメージです。
抽象化の問いはその逆で、山の頂点にある「相手が本当に望んでいること」を深堀するようなイメージです。実際私がコーチングやカウンセリングの現場でさまざまな相談にのるとき、この三角形を頭の中でイメージし、「自分は相手に何を問いかけているのか?」をかなり意識しています。会話のメモとしてノートに書き出しながらヒアリングすることもあります。視覚的にも何を問いかけるのかが明確になるので、会話の流れを作るのに迷うこともありません。
三角形をイメージしたこの問いのモデルを「トライアングルコミュニケーションモデル」と呼んでいます。
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