“チャット×生放送”の授業で「ネットならでは」の一体感――「スクー」の授業が盛り上がるわけオンライン学習の今(前編)

百戦錬磨の起業家やビジネスパーソンが講師を務め、分からないことはその場でチャットで質問できる――。こんなネット時代ならではの“双方向な生放送授業”を展開しているのがスクーだ。このサービスはどんな背景から生まれ、どんな学びの体験ができるのか。スクーの社長を務める森健志郎氏に聞いた。

» 2014年07月31日 10時30分 公開
[山崎潤一郎,Business Media 誠]
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 学びたい人にとって、「時間」と「場所」に縛られず受講できるオンライン講座はとてもありがたい存在だ。2013年ごろから、個人を対象とした無料あるいはリーズナブルな料金で受講できる「オンライン教育プラットフォーム」「e-ラーニング」などと呼ばれるサービスが続々と登場し、ネットを利用した学びの環境が整ってきた。

 数あるオンライン学習サイトの中でも、ひときわ注目を集めているのがスクーだ。ビジネスの現場で活躍する人材が講師として登壇する同サイトは、実践的な内容の授業を多岐にわたるジャンルで提供していることから若者層を中心に人気を博している。

 しかし、スクー最大の魅力はアーカイブ型コンテンツではなく、「生放送」の授業にある。「時間と場所の制約からの解放」が売りのオンライン講座なのに、「時間を縛る生放送」が魅力とはどういうことなのか。なぜスクーは、生放送型の授業を重視するのだろうか。

 そこには、オンライン講座であっても、受講者が「学びのモチベーション」を維持できる環境を提供したいという、スクーならではの強い思いがある。

Photo 業務現場で活躍するビジネスパーソンの講座が並ぶスクーの授業。生放送の授業はすべて無料で視聴できる。録画授業を無制限で視聴するには月額525円のプレミアム学生登録が必要

仮想の教室でクラスメイトと共に授業を受ける一体感

 生放送の授業ではどのようなことが行われているのだろうか。

 まず授業が始まると、映像の横に表示されるタイムラインに続々と「着席しました」の文字が流れ、ほかの受講生たちが入室(アクセス)してきたことが分かる。授業中も、講師の話に呼応するように質問や意見が飛び交い、講師もすかさず「○○さんがとても良い質問をしてくれました」などと反応。こうしたやりとりを通じて味わえるのは、仮想の教室に集まってクラスメイトと共に授業を受けている一体感だ。無機質で一方通行なオンデマンド型の授業では味わえないユーザー体験にわくわくする。体験すれば即座に「なるほど、これが生放送授業の醍醐味(だいごみ)なのか」と納得できる。

Photo スクーの授業の様子。講師のトークと資料、生徒の投稿が同じ画面上に展開される

 教える側もこのわくわく感を味わえるのが、スクーの面白さといえるだろう。去る4月上旬、筆者は、スクーで自著を題材にした生放送授業を行ったのだが、ネットの向こう側にいる大勢の生徒たちと学びの場をリアルタイムで分かち合う体験を通じて、オンライン講座の大きな可能性を感じた。

 筆者はこれまで、リアルな講座の登壇者として人前で話す機会を幾度となく経験してきたが、目の前に居並ぶ受講生と“フェイス・トゥー・フェイス”状態であるにもかかわらず、スクーほどの一体感を覚えることはなかった。

 筆者のスクーの授業に参加し、積極的に発言してくれた生徒とオフラインで意見交換をする機会があったのだが、ここでも面白いことが分かった。授業中に挙手して発言するのはなかなか勇気がいるため、リアル講座で授業中にコミュニケーションをとるのが難しいことは読者の皆さんも覚えがあるだろう。しかしスクーの生放送授業の発言は、キーボードをたたくというチャット感覚で行えるため、気後れせずに発言できたというのだ。

コミュニケーションの楽しさこそ、学びを続けるモチベーションとなる

Photo スクーを率いる森健志郎社長

 リアルタイムコミュニケーションは、インターネットの大きな魅力の1つだ。ニコニコ生放送やUstreamで、配信する側と見る側がともに熱くなれるのは、リアルタイムで意見交換できる仕組みがあるからこそだろう。それをオンライン講座の場に持ち込んだのがスクーを率いる森健志郎社長だ。

 森氏は前職であるリクルート入社時の研修で、数10時間にもわたり識者が延々と一方的にしゃべり続けるオンデマンド型の動画を見せられた経験があり、「僕ならインターネットでしか提供できない学びの体験を実現できるのに」という強い思いを抱いたという。これがスクーが生放送授業にこだわる原点になった。

 森氏がリクルート退職後に立ち上げたスクーは、動画を使った生中継の授業にチャットを連携させた双方向コミュニケーションの仕組みを取り入れるなど、インターネットの力を最大限に利用している。「単に授業だけを提供するのではなく、講師と生徒はもちろん、生徒間のコミュニケーションの楽しさも同時に提供することが、受講のモチベーションにつながる」(森氏)ことを重視しているわけだ。

 ただ現状では、リアルタイムコミュニケーションを伴う授業に、受講する側がまだ慣れておらず、コミュニケーションの楽しさはあっても、新しい形の「学び」といえるまでには至っていない印象を受ける。

 おそらく、森氏がイメージしている授業は、講師の話を起爆剤に生徒間でもっと活発なディスカッションが沸き上がり、講義が終わった後にも、教室に居残った生徒間で“けんけんごうごう”のディベートが行われる――といったものだろう。

 受講する側の意識が追いつけば、オンデマンド型の講座はもちろん、リアルな授業でも味わえないインターネット時代の「新しい学び」が形成されるのかもしれない。もちろん、そのためには講師の側もそれに応えるレベルの授業を提供することが求められるだろう。

 後編では、スクーが目指す新しいオンライン学習の姿とビジネスモデルに迫る。

著者プロフィール:山崎潤一郎(やまさき・じゅんいちろう)

音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。近著に『コストをかけずにお客さまがドンドン集まる! LINE@でお店をPRする方法』(中経出版)がある。


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