名刺のデジタル化と共有の効果は、業務の効率化だけではない。活用範囲を一歩広げることで、「売上アップ」や「営業力強化」につなげられるケースもある。名刺のデジタル化でその取り組みに成功したレイスグループの活用法を聞いた。
仕事を通じて出会う人々と日々交換する「名刺」。名刺交換と営業活動で培った人間関係が、“仕事の生命線”ともいえる重要な役割を果たしているのは、もはや言うまでもないことだろう。
今、“名刺”に記されたさまざまな情報をデータとしてシステム上に蓄積し、共有、活用しようという試みが注目を集めている。これまで、企業が名刺のデジタル化や社内共有の効果として期待するのは「個人情報管理におけるコンプライアンスの徹底」「業務効率の向上」といったところだったが、最近ではデータをうまく使いこなして「売り上げアップ」につなげる事例が出てきていることから、“その先の活用”に期待が寄せられている。
名刺データを活用した組織的な営業活動で成果を挙げている企業の1つに「レイスグループ」がある。中途採用支援事業を中心に展開する同グループが名刺管理の電子化に取り組んだ経緯や、名刺データの活用でどんな成果が上がったかを担当者に聞いた。
名刺のデジタル化と、営業支援ツールとしての活用を推進したのは、同グループの営業部門でゼネラルマネージャーを務める伊東修氏だ。
伊東氏は以前、レイスの大阪オフィスで営業部門のマネージャーを務めていた。その当時、業務を通じて入手する大量の名刺を管理する際の効率化や「企業としての情報管理の徹底」を主眼に、電子化を検討し始めたという。
「私の場合、年間に400〜500枚のペースで新しい名刺が増えていました。これだけ大量の紙の名刺を管理し、必要な時に探し出すのには大変な手間がかかっていたのです。まずはこれを何とか効率化したかったわけです。もう1つ、営業担当者が業務を通じて手に入れた名刺を、退職時に持ちだすことが問題になっていたのも大きいですね。こうした課題を解決するため、2009年ごろには、本格的に名刺管理の電子化と活用が可能なシステムの導入に取り組み始めました」(伊東氏)
検討の末に同社が選んだのは、Sansanが提供する法人向けのクラウド名刺管理サービス「Sansan」だった。同社は以前、一般的なSFAやCRMのシステムを使って名刺管理を含む営業支援と顧客管理に取り組んでいたが、結果的にそれらが十分に活用される機会はなかったという。
「機能が多く複雑で、われわれには使いこなせなかったのです。たしかに大規模なメーカーなどであれば、データベースがしっかりと設計され、案件管理から調達、生産、受注、販売、物流までをサポートできるような本格的な業務アプリケーションが有効なのかもしれません。しかし、われわれのようなサービス業では、名刺データを手間をかけずに管理できて、それを手軽に営業支援につなげられる、シンプルで使いやすいシステムのほうが合っていたのです」(伊東氏)
同社では、高精度なデータ取り込み機能とシンプルな名刺管理機能、名刺データを生かした営業支援機能が用意されていることを考慮してSansanの導入を決定。導入を機に、「営業担当者が交換した名刺は必ずスキャンし、会社の資産として個人の手元には残さない」という社内ルールを徹底させた。
Sansanでは、名刺をスキャナーでスキャンすると、デジタル化の過程でオペレーターが名刺の情報が正確かどうかを目視で確認し、紙の名刺と異なる部分は修正して保存する。そのため蓄積されるデータの品質が、機械式のOCRなどに比べると非常に高くなるのがポイントだ。データ化の手間をかけずに正確なデジタルデータが得られ、検索もしやすかったことから、比較的早く社内に“名刺デジタル化文化”が定着したと伊東氏は振り返る。さらに、名刺データの社内共有を通じた営業支援策も、すぐに効果が表れたという。
「営業担当者が、ある会社にアプローチしたいと考えたとき、社内の他のメンバーがその会社の人に会ったことがあればすぐに分かるようになったというのはメリットの1つです。それが分かれば、お互いに持っている情報を出し合いながら、より効果的なアプローチができるからです」(伊東氏)
現在、レイスグループでは100人を超える営業担当者が、1カ月に5000枚以上の名刺をSansanに登録できる環境が整っている。こうして蓄積されたデータを、より具体的な売り上げ向上へとつなげるために同社がとった次のアクションは「一括メール配信」機能の活用だった。
一括メール配信は、Sansan上の名刺データを、会社の所在地や業種、役職などのさまざまな条件でフィルタリングし、条件に合ったメールアドレス宛に一括でメールを配信できる機能。伊東氏はこの機能を、従来の手法よりも多くのアポイントを獲得するための営業ツールとして使うことを試みた。
レイスグループは業務の性質上、営業対象を「社長」に限定している。これまでは、社長のアポイントをとるために電話やダイレクトメールを使っていたが、営業の効率はよくなかったという。
「例えば、電話でアポイントをとろうとする場合、100件電話をかけて、社長とのアポイントをとれるケースは、せいぜい1件といったところです。100件電話をかけるのに必要な時間は約5時間。つまり、5時間かけて1件のアポイントをとっていたわけです。より効率の良いアポイント獲得のために、一括メール配信が有効なのではないかと考えました」(伊東氏)
十分に蓄積されつつある名刺データの中から、「見込み客」の情報を掘り起こそうとしたわけだ。
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