5万円、払ってもいいなら……救急車を呼ぶ? 呼ばない?:現役医師がズバリ回答(2/2 ページ)
「緊急性があるときだけ」は呼んでもいいと言われると、なかなか気軽に呼べない救急車。緊急性があるときってどうやって判断したらいいのでしょうか。
緊急トリアージシートってご存じ?
ここで、ちょっと参考になるのが「緊急トリアージシート」。これはいくつかのチェックポイントをもとに緊急性を判断するものです。これは現在まだ試行段階なので、従来通り119番すればとりあえずどんな軽症にも駆けつけてくれるそうです。とりあえず現場での処置をした後、救急搬送するかどうかをこのトリアージシートで判断するとのこと。
具体的には四肢の開放創、前腕と下腿の挫傷など、四肢の熱傷、耳鼻異物、鼻出血、限局的な皮膚症状、不眠や不安、孤独感など――についての項目があります。これらの場合には、緊急かどうかをチェックする質問項目があり、それで救急搬送するか判断するというわけです。ほかに合併症する症状とか、受傷の程度とか、そういうものを聞いていくわけですね。
それにしても、「孤独感」という項目がちょっと気になります。チェックシートを使う以前に、「なんか孤独なんですけど」って救急車呼ばれても困っちゃうよなー。私も実際、こういう要請を見たことがあります。「1人で寂しいから来てちょうだい」というおばあちゃん。気持ちは分かるけどさ、私だって1人で寂しい夜は多々あるのに耐えてるんだよーと言いたい! 「孤独感」ってところに「30歳以上である」「独身である」なんてチェック項目があったら、私は迷わず搬送されてしまうんだろうな。
現在は試行段階のこのシステムですが、うまく活用されればそのうち様々な症状に合わせてチェックリストができるかもしれませんね。これが誰でもすぐに自宅や外出先で使えるようになれば無駄な救急要請は減るのかもしれないけど、いつもこのシートを持って出かけるわけにもいかないし。「指にトゲがささったかも」なんてことくらいで救急車を呼ぶような人は、きっと自主的にこんなリストをチェックするという行為すらしないんじゃないかなー。しかし、「こういう事で緊急性を判断するんだなー」というのは何となく参考になります。
その5万円、自腹で払っても救急車を呼びたい――が判断基準!?
まあ結局のところ、「自力ではとても病院に行けない」「命に危険を感じる」なんて場合には、迷わず救急車を呼ぶというのは従来通りでよいのでしょう。前に救急隊の方と話をした時に、「1回救急車が出動するのに5万円くらいかかる」とおっしゃっていました。その金額が正確なのかは分かりませんけど、言うなれば「その5万をたとえ自腹で払ったとしても救急車に来てもらわないと困る!」と思えるケースにおいては、やはり呼ぶべきなのでしょう。
ほんの一部の非常識な人たちのために救急車要請にまつわる意見が盛んになりすぎて、本来救急車を呼ぶべき人が遠慮して取り返しのつかないことになったりするのは絶対に避けたいところです。とりあえず、「救急車を呼ぶべきか迷う」という人がすぐに電話で相談できるシステムが全国に普及するといいなぁと、非力な一人の医師として素朴に思います。
仁科桜子(ドクトル・ピノコ)プロフィール
女医。医大生時代には体育会に属しつつ、某社キャンペーンガールや大手塾講師など数々のバイトをこなす日々を過ごす。現在は、酒と体力だけには自信アリの外科系ドクターとして病院勤務。
ドクトル・ピノコ名義で「週刊ビジスタニュース」などにコラムを執筆している。2009年1月、仁科桜子(にしな・さくらこ)名義で『病院はもうご臨終です』(ソフトバンク新書)を発売した。
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