「新・ぶら下がり社員」が企業をむしばむ:「新・ぶら下がり社員」症候群(2/2 ページ)
「新・ぶら下がり社員」が増えれば、企業はどうなるのか。端的に言うと、企業の成長が止まってしまう。管理職がいなくなり、現場で判断できる人もいなくなる。こうした企業にいる社員の心も、いつの間にかむしばまれてしまうだろう。
ぶら下がる心は本人をむしばむ
今、30代で心の病になる人が増えている。
財団法人日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所による調査では、上場企業で心の病がもっとも多い年齢層は30代であり、2010年度では実に58・2%と高い水準である。10〜20代は10%台、40代は20%台であり、ほかの世代と比較してもやはり30代は圧倒的に高い。
2008年度の調査では、「人を育てる余裕が職場になくなってきている」「組織・職場とのつながりを感じにくくなってきている」「仕事の全体像や意味を考える余裕が職場になくなってきている」という3つの要素が心の病に関係しているというデータもある。これらの傾向が見られる企業では心の病が増加し、これらの傾向が見られない企業では心の病が増加する割合は低い。
まさに、これら3つの要素は新・ぶら下がり社員を生む要因でもある。
育成されずに放置されていたら、仕事の達成感や満足感も味わえないだろう。仕事の達成感や満足感は周りの評価によって得られる部分が大きい。成果を出しても認めてもらえなければ、モチベーションが落ちるのは当然である。
職場とのつながりを感じられなくなったら疎外感や孤独感を味わい、仕事の全体像や意味を考えなかったらただ目の前にある仕事をこなすだけの毎日になる。
育成プログラムで会う30歳前後の社員のうち、70%どころか20%、30%ぐらいのモチベーションしか持っていない人も少なくはない。彼らは入社当時から20%、30%だったわけではなく、何かをきっかけに徐々にやる気を失い、自分ではどうしようもない状態になっている。うつ病になり、しばらく休職して復帰し、また休職するという繰り返しの人もいる。
70%で食い止め、80%、100%と上げていかないと、いずれ20%、30%になるだろう。心の病にかかる社員もますます増加する。
先日会った30代の女性は、会社に入ってから面白いと思ったことは一度もない、感情がまったく動かないとこぼしていた。うれしいことも、悲しいこともない。感情が動くことがまったくなく、日々が淡々と流れていくとのことだった。彼女の場合、直属の上司との相性が悪いのが原因であった。すぐに怒鳴られ、何をやっても否定されてばかりいたら、誰でも感情を押し殺すようになる。「何かやりたいことはありますか?」と問いかけても「ありません」としか答えない。「どんな自分になりたいですか?」と問いかけても、「分かりません」としか答えない。決して、職場で仕事をしていないわけではない。与えられた仕事は、それなりにこなしているというのだ。
彼女に、「感情が出せるようになりたいですか?」と問いかけると、しばらく考えて、「感情が出せるようになりたい」と答えた。
本当は、本人も変わりたいと望んでいる。前述のハマちゃんのようにやんちゃなタイプは、会社という枠にとらわれず、好きなことをして自由に生きているから生き生きしている。本人が満足しているのなら、それも1つの生き方だからいいだろう。
だが、30歳前後で向上心を失っている人が、残り30年の会社人生をどう送るのだろうか?
何も学ばず、何も生み出さず、何も変えようとしないまま、30年も会社で過ごせるのだろうか。給料をもらうだけの生活に、本当に満足するのだろうか。
実際は70%で満足している新・ぶら下がり社員はいないのである。誰でも、つまらない毎日から解放されたいと思っている。充実した毎日を送れれば、心の病にかかる恐れもないのである。
著者プロフィール:吉田実(よしだ・みのる)
株式会社シェイク代表取締役社長。大阪大学基礎工学部卒業後、住友商事株式会社に入社。通信・放送局向けコンサルティング、設備機器の輸入販売を担当。新事業の立ち上げなどにもかかわる。2003年、創業者森田英一の想いに共感し、株式会社シェイクに入社。営業統括責任者として、大手企業を中心に営業を展開する。2009年9月より現職。
現在は、代表取締役として経営に携わるとともに、新入社員からマネジャー育成プログラムまで、ファシリテーターとして幅広く活躍する。ファシリテートは年間100回を数え、育成に携わった人数は6000人に上る
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