私物スマホ持ち込み制度は会社の携帯電話コストを25%カット――NTT Comの場合
スマートフォンやタブレットの普及で従業員の私物端末を活用するBYODへの注目が高まっている。導入の障壁、実際の導入効果はいかほどか、NTT Comが自社事例を踏まえてまとめた。
ここ数年、携帯端末市場で勢いがあるのがスマートフォンだ。企業でも従業員の携帯端末をスマートフォンに置き換えたり、従業員の私物スマートフォンを業務に活用したりする「BYOD(Bring Your Own Device)」の動きが見られる。
スマホ時代のBYODはいわば「私物スマホ持ち込み制度」。社員と企業それぞれの視点でメリット、デメリットが存在する。企業は実際に自社にとってどれほどの導入効果があるのか、事前に整理しておく必要があるだろう。
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、5月30日に開幕したイベント「ワイヤレスジャパン2012」の中で「BYODによる『ワークスタイルの変革』と『コスト削減』」と題したセミナーを実施。NTT Comの堀口毅典担当課長(ボイス&ビデオコミュニケーションサービス部)がBYODの効果などを紹介した。現在のスマートフォンをめぐる市場動向やBYOD導入事例はどうなっているのだろうか。
BYODへの関心は今のところ半々
MM総研やIDC Japanなど各調査機関が2011年に実施したスマートフォン市場に関する調査によると、法人のスマートフォン契約数は増加の一途。増加率では個人のそれを上回る勢いだという。携帯端末の導入を検討する企業のうち、その3分の1はスマートフォンを選択している。
期待する効果は「生産性の向上」「業務効率化」「コスト削減」「BCP(事業継続計画)対策」などが上位に挙がる。
一方、スマートフォンは「まだ必要ない」「考えていない」とする企業も全体の6割以上を占める。堀口氏は「スマートフォンは端末代金に加えて、パケット定額など月額利用料がフィーチャーホン以上に掛かる。やはり投資額が高くつくことが前提なので、半数を越える企業で必要なしと判断しているのでは」とコメント。加えて「不正アクセスへの不安」や「情報漏えい」などセキュリティ対策に関する項目も阻害要因となっているという。
社員の不安要素はどこまで解消できるか
では実際、BYODの導入によって、従業員、企業にはそれぞれどのような影響があるのだろうか。堀口氏は以下のような表にまとめて紹介した。
メリット | 課題 | |
---|---|---|
社員(個人) | ・使い慣れた端末を利用できる ・2台持ちしなくていい |
・会社に自分の端末を管理される ・端末内にあるプライベート情報が会社に漏れる心配がある |
企業 | ・貸与携帯の基本料削減 ・貸与端末コストの削減 ・適用対策社員の拡大 |
・セキュリティ(ウイルス、紛失盗難)対策の整備 異なるキャリアでのシステム検証 |
社員から見れば、2台持ちする煩わしさなどを避けられる一方、やはり自分の端末を会社に管理されたり、それによってプライベートの情報が見られるのでは、といった懸念が挙げられる。
会社側もコスト面などでメリットが多いものの、法人の一括導入をする携帯電話に比べて、BYODならではの課題があるのが実際だ。「異なるキャリアの端末を管理する場合には、MDM(モバイルデバイス管理)などの製品を導入する必要があり、加えて業務アプリをどこまで構築するかなど、システム検証の部分でメリットとのトレードオフになってくるだろう」(堀口氏)
BYODで年間1.3億円の削減
NTT Comでも、2012年2月から順次BYODを導入している。同社の施策では、これまで発生していた7500台の貸与携帯分、年間4.7億円がBYODによって年間1.3億円削減できる施策だという。
その背景には、同社のIP電話サービス「050plus for Biz」の活用や社外からオフィスにアクセスできる環境(リモートアクセスソリューション)の構築により、業務の効率化が進んだ。050plusはスマートフォンにインストールする専用アプリを使って、050番号で発着信できるというもの。月額525円の基本料を払えば、通話料をIP電話間であれば国内海外間でも無料、それ以外の番号でも一般電話へは3分8.4円、携帯電話へは1分16.8円で通話可能だ。
堀口氏によると、営業マン1人当たりのコスト削減効果は、外出の多い社員の場合で年間20万円程度。これまでは夕方に訪問が終了しても、一度帰社して日報を書く作業が発生していた。導入後は外出時に小まめにメールチェックができたり帰社せずに日報を書けるようになるので、移動時間や残業時間を削減できる。
BYODは米国を中心に普及してきた考え方。日本の場合は個人情報保護法のような対応すべき独自の法制度やセキュリティー文化が存在する。だが、今回のNTT Comのようにセキュリティを担保しつつも導入効果を見出した企業もある。日本企業は米国の流れをそのまま引き継ぐだけでなく、今後こうした事例を積み重ねていく必要があるだろう。
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