ビジネス文書に「私は」はいらない:「話し方」より「答え方」
論文、新聞記事、報告書、仕事上のメール――これらフォーマルな文章は物事を正確に、つまり客観的に説明する必要があります。そこに書き手の主観が混じると「説明の正確さ」に疑念を抱かれてしまうのです。
仕事に必要なのは、「話し方」より「答え方」について
部下の仕事の9割は、聞かれたことに正しく答えることです。ビジネスにおける答え方には「こう聞かれたら、こう答える」という決まった型があります。「打てば響く部下」と思われるために必要な「受け答え」の技術を大手予備校で現代文、小論文を指導する「国語のプロ」が伝授します。
この記事は2013年6月14日に発売された中経出版の『仕事に必要なのは、「話し方」より「答え方」』(鈴木鋭智著)から抜粋、再編集したものです。
「文章が苦手」という人は多いものです。しかし「水泳が苦手」な人が「息継ぎができない」「5メートルで沈む」など「何ができないのか」を具体的に自覚しているのに対して、「文章が苦手」という人は自分の文章のどこがダメなのかが具体的に分からないまま「なんとなく苦手」と思ってしまいがち。
特に就活生からよく相談されるのが、「書いた文章がなんとなく幼稚」「学生っぽくなってしまう」という悩みです。でも、どの部分が「子どもっぽさ」を感じさせているのかが自分では分からないというのです。
問題「新メニューのステーキセットに添えるデザートを検討中です。ゆずシャーベットを一番に推すリポートを書きなさい。」
× 私はゆずシャーベットが一番いいと思う。ステーキを食べた後は口の中が脂っこくなるが、シャーベットのシャリシャリ感でさっぱりするし、なによりゆずのいい香りと酸味。あまり主張しないので、メニュー全体の中でも違和感がないと思う。
○ ステーキの後のデザートには、ゆずシャーベットが最適である。アイスクリームと異なり氷粒が大きいため口の中の脂分が落とされ、かんきつ系の香りと酸味が清涼感を与える。しかも他の料理に比べ味と香りが強くないため、メニュー全体のバランスが保たれる。
フォーマルな文章に「私は」という主語は不要です。
フォーマルな文章とは論文、新聞記事、報告書、仕事上のメールなどです。これらは物事を正確に、つまり客観的に説明する文章。そこに書き手の主観が混じると「説明の正確さ」に疑念を抱かれてしまうのです。そこでフォーマルな文章、客観的な文章を書くときには「私は」を主語に使わず、物事を主語にする必要があるのです。
「私はゆずシャーベットが一番いいと思う」ではなく「ゆずシャーベットが最適である」。
「(私は)違和感がないと思う」ではなく、「バランスが保たれる」。
実は「なんとなく子どもっぽい文章」という印象を与えてしまう1番の原因は、この「私は」にあったのです。確かに小学校の作文は「ぼくは、わたしは」でした。小学生には半径5メートルの個人的体験以上のものは求められていないからです。
客観的文章=「私は」ではなく、物事を主語にする
論文指導でよく聞かれる質問に「『〜と思う』を使うと主張が弱くなる気がするし、『〜である』って言い切ると今度は強すぎる気がするんですけど?」というものがあります。
しかし、これは主張が強いか弱いかという程度の問題ではありません。主語が「私は(主観)」か「物事(客観)」かという、視点の根本的違いだったのです。
次の文章を、新聞記事向けに直しなさい。
問題「昨夜8時すぎ、県道4号線で乗用車とトラックの衝突事故が発生した。乗用車を運転していた会社員Aさんは現在も病院で苦しんでいる。トラックを運転していたB容疑者は現行犯逮捕。運転前に酒を飲んでいたらしい。」
○ 昨夜8時すぎ、県道4号線で乗用車とトラックの衝突事故が発生した。乗用車を運転していた会社員Aさんは病院に運ばれ、現在も意識不明の重体。トラックを運転していたB容疑者からは基準値を超えるアルコールが検出され、警察の調べに対し酒を飲んだことを認めている。
「苦しんでいる」というのは記者の勝手な推測です。もしこれが事実なら「Aさんは救急隊員の呼びかけに対し『苦しい』と答えた」という書き方になったはずです。「酒を飲んでいたらしい」という伝聞の表現も、目撃者から聞いたのか警察発表なのか、単なる記者の勘なのかが分かりません。
推測や伝聞も、そう思ったり伝え聞いた主語は「私は」です。
これも「目撃者は……と証言している」のように第三者を主語にすることによって客観的な表現になるのです。
今回のまとめ:客観的文章=「私は」ではなく、物事を主語にする
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