「年功序列は悪!」ではない:ずっと「安月給」の人の思考法(2/2 ページ)
「年功序列型の給料」と聞くと、古臭いとか、実力が反映されないのでやる気がなくなるというイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、本当に右肩上がり給料はいけないのでしょうか? アンケート結果をもとに検証してみましょう。
安月給の思考法4.「技術革新が進めば生産性が上がり、給料も上がる」と期待している
現代では、あなたの労働力の価値を引き下げるものがあります。そこに気付いていないと、知らぬ間に労働力の価値が下がり、給料が安くなってしまいます。これからの時代、労働者は自分自身で「価値」が下がらないように、これらに対抗し、自分で自分の身を守らなければいけません。
あなたが携わっている業界で最新技術が発明されたとしても、喜んではいられません。確かに業務は効率化し、あなたがやらなければいけない業務は減るかもしれません。生産性も上がるでしょう。でも、「仕事が楽になった♪」と喜んでいる場合ではないのです。
例えば、僕が身を置いている出版業界では、このような話があります。昔は(と言ってもほんの20〜30年前までは)、作家は原稿用紙に手書きで原稿を書きました。それを編集者が預かり、写植屋というプロの打ち込み屋さんに依頼して、1文字ずつデータ化していたのです。
それが今では、ワードなどのテキストファイルに作家自身が打ち込んだ原稿を、編集者にメールで送っています。
作家自身も、かつては「間違えたら、書き直し」でした。単なる書き間違いだけではありません。原稿を読み直して磨いていく過程で、どんどん修正したくなります。今では、単にファイルを上書き保存すればいいだけです。原稿の順番を変更したい場合でも、コピー&ペーストで簡単に入れ替えができます。僕自身、この本の原稿は大きく3回も書き直しています。
そんな作業を、今まではすべて1から手作業で行っていたのかと考えると、気が遠くなります。考えただけで冷や汗が出るような膨大な作業です。現在、この「1から手書きでやり直し」がなくなっているだけで、格段に執筆作業が楽になっています。そしてその分、年間に書ける本の冊数が格段に増えています。
ワードは出版業界のための技術ではありませんが、「文字業界」に技術革新が起こったために、革命的に仕事が“効率化”しました。つまり、1冊の本を書く労力が減ったのです。これまでは1年かけなければ完成できなかった原稿も、3カ月でできるのです。
その結果、作家がもらえる「1冊あたりの報酬」は相場が下がりました。「かつては1年必死にがんばらないといけなかったけれど、今では3カ月で済むから報酬もそれくらいでいいよね?」ということです。
だれかがこう言っているということではありません。業界の雰囲気として、また相場としてそのように変化してきたのです。
正確に言うと、作家がもらえる報酬(印税)は、「書籍定価の10%×印刷した部数」であることがほとんどです。この計算式自体は、いまも昔も変わりません。
しかし、最初に印刷する部数が驚くほど減っています。20年前は、初版部数(最初に印刷する冊数)は、3万部が平均でした。売れるか売れないか分からないけれど、それでもそれくらい印刷するのが通常だったのです。
なぜか? そのくらい刷らないと作家が生活できず、結果的に原稿が書けないからです。
でも今は、初版部数の平均は4000部程度です。この20年で、8分の1以下に減ったわけです。すると当然、作家がもらえる印税も減ります。
一般的には「本が売れないから、初版部数が減っている」と思われています。確かに、本がもっと売れれば印刷部数ももっと増やすでしょう。しかしその理由は「後付け」です。
本質的には、初版部数を減らしても作家が生きていけるので(1冊あたりの部数が減っても、原稿を書く労力が減り、書く本の数自体を増やせるので生活できるから)なのです。
作家だけでなく、出版社の編集者も営業もその他の管理部門の社員も同じです。1冊1冊が売れなくても、生きていかれるくらい業務が効率化しているので経営が成り立っているのです。
もしかつての技術のまま、部数が減っていったらどうなるでしょう? その場合、作家、出版社の従業員などの創り手は生活できなくなり、この業界自体が消滅していたと思います。もしくは、「これまでのように3万部刷っても大丈夫な本(それくらい売れる本)」だけを、点数をしぼって出すことになっていたはずです。
技術革新により業務が“効率化”したために、生き残りやすくなったのですが、同時に労働力の価値が下がったのです。
盲目的に「技術革新が進めば、仕事が楽になって生活が豊かになる――」と考えるのは、「安月給の思考法」なのです。
安月給の人の8つの思考法 まとめ
3.「年功序列は悪!」と考える
4.「家族を大事にする会社です」にグッとくる
(次回は、「チャンスはいつまでもある と思っている」について)
関連記事
- なぜか低い残業代のカラクリ
給料を増やしたいと思ったとき「長時間働けばそれだけ給料が増える。残業すればいい」と考えがちですが、本当にそうでしょうか? 給料を増やすには、まず自分の「時給」を把握して、そして会社の給料のシステムをよく知ることから始まるのです。 - 団塊世代の懐は寂しい? 退職後のお小遣いは2万円以上の減
団塊世代は働いてきた会社に対し、どのように感じているのだろうか? 漢字一字で表現すると最も多かったのは「忍」、次いで「楽」と“我慢と楽しさ”に意見が分かれる結果となった。ユーキャン調べ。 - 働く女性が、「仕事を楽しむ人」を彼氏にしたいワケ
「仕事を楽しんでいる男性はモテる」――。JTBモチベーションズが行った調査で、こんな結果が出た。働く女性の3人に1人は「仕事を楽しむタイプ」を恋人にしたいそうだが、なぜこうした男性がモテるのか。同社の担当者に話を聞いた。 - 転職した人に聞く、年収はどうなった?
あなたはなぜ転職をされたのですか? 2012年6〜11月の間に転職をした人に聞いたところ「会社の将来に不安を感じて」を挙げる人が最も多かった。リクルートキャリア調べ。 - なぜ給料が二極化するのか? 年収200万円と800万円の人
景気低迷の影響を受け、給料は下がり続けている――。そんなビジネスパーソンも少なくないだろう。では、今後10年間はどうなのか。リクルートで働き、中学校の校長を務めた藤原和博さんに「10年後の給料」を予測してもらった。 - 平均年収1000万円以上の人が、就活生に勧める企業はどこ?
高年収のビジネスパーソンは、就活生にどんな企業を勧めているのだろうか。平均年収が1000万円を超えている人たちに聞いた。ビズリーチ調べ。 - 平均年収、最も高い業種は――DODA調べ
他人の給与は気になるものだが、実際のところどのくらいもらっているのだろうか。転職サイト「DODA(デューダ)」に登録しているビジネスパーソンのデータを基に、業種別の平均年収を調べた。 - 仕事への不満はやっぱりアレ
今の仕事って楽しい? アイシェアがビジネスパーソンに実施した調査によると、46.4%の人が「仕事は楽しい」と回答。一方で「つまらない」と答えた人は21.2%、「普通」と回答した人は32.4%と、全体では「仕事が楽しい」と感じている人が半数近くを占めていることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.