2月10日、イー・アクセスが携帯電話サービスの実証実験および商用化に向けたビジョンを発表した。同社は番号ポータビリティ制度(MNP)が始まる2006年度中に、新たに割り当てられる1.7GHz帯を使って携帯電話事業に参入したいという。ソフトバンクが800MHz帯の割当を求めて総務省や既存キャリアと衝突するなど、携帯電話の新規参入は波乱含みの展開になっているが、新しい足音は着実に聞こえはじめている。
携帯電話に限らず、通信サービスの新規参入で必ず注目されるのが「価格競争」だ。実際、イー・アクセス、ソフトバンクともに「既存キャリアのサービス料金は高すぎる」とし、料金水準の引き下げを錦の御旗に掲げる。しかし、“携帯電話に限って”いえば、新規参入組が成功するか否かの鍵は、価格競争以外の分野にある。
むろん、サービス料金で競争が起こり、その水準が下がることはユーザーにとって福音である。しかし、サービス料金が絶対の争点でないことは、1995年に鳴り物入りで登場したPHSのその後の凋落を見ても明らかだ。
筆者には、“もとNTTパーソナル社員”の友人が何人もいるが、彼らはPHS事業の敗因について、「携帯電話よりも安い料金で似たようなサービスをしたのが、根本的な失敗だった」と語る。PHSはその価格競争力で一時的な注目を集めたものの、携帯電話キャリアの対抗値下げによって優位性が薄れた。そうなると「PHS=安い携帯電話」のイメージは、かえってPHSサービスのブランド力を落としてしまい、次第にユーザーが離れる要因になってしまう。さらに安さ以外の独自性のあるコンセプトが生み出せなかったことで、エリアやハンドオーバーでのデメリットばかりが目立つようになってしまった。結果としてPHSは、携帯電話サービスの料金水準を引き下げる功績を残したが、それが自らの苦境を招くという報われない状況に陥ったのである。
“ケータイ”ビジネスは、ユーザーのライフスタイルやファッション、コンテンツ消費などに複合的に関わっており、様々な要素が複雑に絡み合っている。利用料金に対するユーザーのニーズは大きいが、「安さだけでは生き残りが難しい」のも事実である。既存キャリアのスケールメリットや文化・ビジネスの厚さに対抗するには、価格競争以外で独自のポジションを確保して、確固たるブランドを形成する必要がある。例えばPHSキャリアのウィルコム(旧DDIポケット)は、1999年以降、携帯電話のビジネスモデルから距離を置くことで、“安い携帯電話”のビジネスから離脱。独自のポジションを確保して再生のきっかけを掴んだ。
イー・アクセスのビジョンに目を向けると、独自のポジションを取れるかどうかの鍵は「端末」と「MVNO」にありそうだ。
既存キャリアのようにコンテンツプラットホームに縛られていない点を逆手に取れば、フルブラウザやスマートフォンの道が開ける。また端末開発におけるメーカーの裁量権を増やし、デザインや機能でメーカーが自由に手腕を発揮できる環境を作れれば、既存キャリアにない「端末の魅力」を生み出せるかもしれない。
また、MVNO(Mobile Virtual Network Operator、用語参照)は既存キャリアの取り組みが遅れている中で、今後が期待できる分野だ。特に通信モジュールを使ったMVNOは、クルマや家電などあらゆるデバイスがネットワーク接続を求めるようになる中で、大きな市場に化ける可能性が高い。
PHSの二の舞にならないためにも、新規参入組は無理な価格競争をせず、むしろ新分野の開拓において、既存キャリアにない魅力とブランドを育てて欲しいと思う。携帯電話のビジネスと文化の幅を広げることが、長期的に見れば市場全体のメリットになるはずだ。
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