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» 2005年03月07日 11時26分 公開

NFCが実現する「仮想化」のパラダイムシフト神尾寿の時事日想

デジタル機器間の情報を“手渡す”イメージでやりとりできる近距離無線技術、NFC。その直感的なインタフェースは、GUIの限界をクリアする、パラダイムシフトになる可能性を秘めている。

[神尾寿,ITmedia]

 先週開催された「IC CARD WORLD 2005」は、非常に見応えのあるイベントだった。その中でも、筆者が将来性を強く感じたのが、近距離無線規格「NFC」(Near Field Communication)によるインタフェースだ。

 NFCについては、すでに詳細なレポートが掲載されているが(3月8日の記事参照)、注目は“直感的なインタフェース”の部分だ。携帯電話を鍵もしくはストレージとして使い、情報や機能を「手で動かす」というコンセプトはわかりやすく、すばらしい。

 翻れば、コンピューターのUI(ユーザーインタフェース)は「仮想化のリファイン」(洗練、改善)の繰り返しだった。1つの転換期は、1970年代に米パロアルト研究所で産声をあげたGUI(Graphical User Interface)だ。コンピューター内の情報や機能をシンボル(象徴)として明示するというアプローチで、UIに革命を起こした。GUIはその後、アップルコンピューターのMacintoshで大衆化され、マイクロソフトのWindowsが追随することで普及した。

 一方、家電製品の場合は、様々な分野の「専用機」であったため、もう少し物理的なアプローチが取られた。機能に対応するUIは、例えばAV機器では「再生」や「停止」と1対1の関係性を持つ操作ボタンであり、情報はテープメディアやディスクメディアといったストレージ単位で物理的に管理された。しかし最近は、高機能なHDDレコーダーなどの登場により、扱う情報と機能が急増し、物理的なアプローチに限界が訪れた。デジタル家電でも「情報」や「機能」をシンボル化し、仮想的に扱わざるを得なくなっている。

 人間は身体性から離れられず、物理法則のくびきから逃れられない。情報がデジタル化され、大量に蓄積・流通するようになったが、人間自身は、極論すれば世界を物体でしか認識できないのだ。その乖離を埋める手段が象徴化であり、コンピューターをはじめとする様々なデジタル機器の「仮想化のリファイン」という歴史である。

 GUIの登場と洗練によって、デジタル世界の象徴化と仮想化はずいぶんと進んだ。だが、それはやはり人間にとって「普通の感覚」ではない。操作する段階でマインドセットの変換を余儀なくされる。その過程で取り残される人たちも作り出してしまっている。

 NFCが実現するインタフェースは、象徴化のアプローチで「物体」による「物理的な動き」を効果的に使っており、物理現実の住人たる人間の感覚に近い。特に携帯電話によるソリューションは、最も身近なデジタル機器を使うだけに受け入れられやすいだろう。GUIの登場に匹敵する、仮想化のパラダイムシフトになる可能性がある。

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