ついに携帯電話でもPDFの閲覧が可能になった(3月9日の記事参照)。1993年、アドビシステムズのジョン・ワーノックによって発表された「PDF(Portable Document Format)」は、マルチプラットフォーム展開と閲覧ソフトの無料配布、紙のように扱えるデジタル文書の仕様が成功要因となり、一気に広がった。今ではオフィスでやりとりされるデータはもちろん、企業や官公庁が公開する文書もPDFが増えており、まさに「紙のような」汎用性を持ち得ている。
関連商品も増えた。筆者の事務所で活躍しているのは富士通の「ScanSnap」で、これは紙文書をボタン1つでPDFに変換してくれる小型のドキュメントスキャナーだ。今では各種資料から取材メモまで、すべてPDFで管理している。デジタル化による「ペーパーレスの夢」を、PDFが実現しつつある。
しかし、PDFにも3つの弱点がある。1つは一覧性で、これはもう紙にはかなわない。筆者はPDF化した資料をノートPCにいれて持ち歩いているが、液晶画面では紙のように「パッと見て把握する」というのが難しい。これはペーパーメディアがデジタルメディアに駆逐されない最大の理由でもある。
そして、あと2つの弱点が、ポータビリティ(可搬性)とアクセサビリティ(接続性)だった。
ポータビリティの面では、ノートPCにPDFを入れれば持ち歩くことはできる。しかし、紙のように“いつでもどこでも”触れるには、今のノートPCは大きすぎる。一方アクセサビリティの点でも、パソコンを必要とするPDFは、オフィスでは問題ないが、社会という規模ではデジタルデバイド(情報格差)の問題を生み出す。
今回発表された携帯電話のPDF対応は、これらの問題を解決する。まずポータビリティの点では、携帯電話はデジタル機器の中では最も小型・高性能なものの1つであり、常に持ち歩いている。満員電車の中で、立ちながら扱うことも可能だ。「いつでもどこでも」使える真のポータビリティを持っている。
一方アクセサビリティでは、8500万台を超える普及台数と、日本市場で洗練された使いやすさが大きく貢献する。携帯電話は社会インフラ化した情報端末である。例えば、企業や官公庁が携帯電話向けに分かりやすく検索性の高いポータルサイトを作り、そこで様々な情報をPDFで公開すれば、デジタル情報へのアクセサビリティは劇的に向上するだろう。携帯電話のPDF対応は、デジタルデバイドを解決するひとつの鍵になりそうだ。
登場から10年が経ち、PDFはまた一歩、紙に近づいた。携帯電話の対応により、今後、PDF関連市場はさらに拡大するだろう。携帯電話の高機能化を後押しするのはもちろんだが、社会全体で情報のPDF化を促進させる可能性が高い。PDFの生成、流通、閲覧まで繋がる巨大なエコシステムが生まれそうだ。
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