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» 2005年04月19日 17時43分 公開

MVNOキャリア、日本通信の強み(前編)神尾寿の時事日想

設備を持たない通信キャリア──それが日本通信だ。MVNOという日本ではまだ珍しい形態でサービスを展開する日本通信の強さはどこにあるのか、前後編に分けて紹介しよう。

[神尾寿,ITmedia]

 2001年10月、MVNO (Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)としてモバイル通信ビジネスに参入した日本通信。「キャリアは設備産業」という常識の中で、同社はPHSサービスと無線LANサービスを組み合わせた「b-mobile」を筆頭に、ユニークなサービスビジネスを展開してきた。

 今日と明日の「時事日想」は特別編として、日本通信CFO、福田尚久氏へのインタビューをもとに、「MVNO」の存在意義と強みについて分析したい。

日本通信CFO、福田尚久氏

MVNOとは“パッケージング”をする会社

 MVNOというスタイル・企業体は、欧米では珍しくない。しかし、日本では「設備=サービス」という上下一体型のモデルが主流である。そもそもMVNOの本質とは何だろうか。

 「我々はお客様とお話しする際に、『MVNOはパッケージングをする会社』と説明しています。例えば、水道管を敷設すれば蛇口から水が出て、これはどういう使い方をしてもいいのですけれど、ペットボトルにいれる『パッケージング』をする事で、お客様のニーズにあった大きさ・形状の商品になります。我々は(モバイルの)サービス開始から、法人、コンシューマーそれぞれのお客様に合わせて通信をパッケージング化してきた。これが、この3年やってきたことです」(福田氏)

 その代表例が同社の「bモバイル」シリーズである。同サービスでは通信インフラとしてウィルコムのPHSデータ通信網を使いながら、公衆無線LANアクセスや、法人向けは固定網ブロードバンドまで組み合わせて使うことができる。また、サービス内容でも既存キャリアにないユニークなものを用意している。

 「例えばコンシューマー向けの『bモバイル』ではプリペイドで利用料金が先払いされ、あとはソフトウェアをPCにインストールしてデータ通信カードを指せば、シームレスにインターネットに繋げることができます。既存キャリアのデータ通信サービスだと、『通信インフラ』と『ISPサービス』は別ですから、それぞれ利用契約を結んでセットアップしなければならないと煩雑です。また、家庭にブロードバンドが入ってきて、外でもインターネットを使いたい人は増えている。しかし『モバイルはしたいけれど、使い放題まではいらない』というニーズはたくさんあるわけです。そこで我々は『bモバイルhours』を投入しました」(福田氏)

 特にbモバイルhoursのように、毎月の基本料がかからないデータ通信サービスは、PCモバイラーの世界にもライトコンシューマー層を作る可能性がある。このようなサービスができるのも、“サービスのパッケージ化”が社是であるMVNOならではと言えそうだ。

顧客ニーズを取り込む「当たり前の秘策」

 インフラを持たないMVNOキャリアは、顧客のニーズを適切に汲みとり、パッケージング化していく必要がある。顧客ニーズのリサーチと、そこからのサービス開発が最重要のミッションである。そのために日本通信が重要視しているのが、キャリアやメーカーではカスタマーサービス部門と見られている「コールセンター」だという。

 「我々のコールセンターはすべて正社員でやっています。多くのキャリアがコールセンターのアウトソーシングをしていますけれど、これは我々からしたら信じられないの一言です。

 なぜなら、コールセンターは最も重要な窓口であり、既存ユーザーからのフィードバッグを受けられます。コールセンターを正社員でやる強みは、サービスに問題や要望があった時にちゃんと社内で解決していける。これはサービス事業者としては、当たり前の業務形態だと考えています」(福田氏)

 現在、既存の携帯電話キャリアも、いわゆる「インフラ事業者」から「サービス事業者」への脱皮を図ろうとしている。そのための重要な鍵はコールセンターという、ともすればコスト削減の対象になる部門にあるようだ。

 「私は前職としてアップルコンピューターにいたのですが、米国アップルで顧客満足度が向上した要因のひとつがコールセンターの正社員化だったのですね。またアップルストア銀座のように直営店を設ける意義も、お客様と正社員との接点を広げるためにありました。サービスカンパニーになる上で、お客様が何を考えているのかを知る。そのために必要な(コールセンターなどの)接点をアウトソーシングするというのは、普通に考えてもおかしいんです」(福田氏)

 福田氏自身も、店頭での販売補助に参加したり、時としてコールセンターにかかってきた電話を取ってサポート業務を行うことがあるという。現場にあるお客様の声を直に接することが、調査会社のリサーチ結果だけを追うよりも、商品企画や経営にプラスになるという考えからだ。「現場の声は宝の山。そこに向き合うことを全社的なカルチャーにすることですね。役員から範を示さなければ、社員もついてきませんよ (笑)」(福田氏)

 これまでの通信ビジネスは、「インフラを作り、作ってしまったインフラを売る」という考え方に基づいていた。しかし、通信ビジネス全般がサービスビジネス化する中で、ユーザーニーズをしっかりと把握する事は重要だ。MVNOというサービスカンパニーとして誕生した日本通信の「当たり前の秘策」は、実は既存キャリアにとっても学ぶことが多いのではないだろうか。

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