あのライブドアがモバイルデータ通信ビジネスに“新規参入”すると発表した(6月15日の記事参照)。サービスの名称は「D-cubic」、公衆無線LANアクセスを広い範囲で提供するホットエリア的なサービスである。
公衆無線LANアクセスをスポットエリアで提供する通称「ホットスポット」は、着実にエリア拡大はしているものの、モバイル通信業界に大きなインパクトを与えるほどには成長していない。「公衆無線LANアクセスを単独ビジネスとして維持するのは難しい。あくまで将来に向けた携帯電話の補完サービス」(NTTドコモ関係者)という位置づけだ。
しかしライブドアは、電力系通信事業者であるパワードコムの協力を得て、電柱にアクセスポイントを設置。面エリアを実現することで、従来の公衆無線LANアクセスよりもボリュームのあるビジネスを展開。低価格も実現する構えだ。
PCおよびブロードバンド回線の普及にともない、「PCでインターネットをする世帯/ユーザー」は着実に増えている。近い将来、ユーザーのニーズは、モバイルでもインターネットのフルサービスに向かうだろう。
携帯電話業界では、ユーザーニーズの変化に対して、フルブラウザ機能の向上で対応しようとしている。その上で、携帯電話コンテンツサービスは、著作権保護機能や課金システムの優位性を生かし、付加価値の高いコンテンツ/サービス流通インフラに“昇華”させようというのが、中長期的なトレンドだ。コンシューマー向けFMCへの取り組みは、その代表例といえる。
一方、D-cubicは、モバイルでのフルインターネットニーズに対する、PC的なアプローチだ。将来、WiFi携帯電話が登場するかもしれないが、当面のユーザー端末はノートPCという事になる。
ノートPC分野では、松下電器産業の「Let's note」シリーズやソニーの「VAIO type T」など、小型軽量でバッテリー駆動時間も長く、ケータイ感覚で使えるモバイルノートも登場してきている。D-cubicのエリア整備が進めば、コンシューマー/ビジネス市場の双方で、これらモバイルノートPC市場の後押しになるだろう。また、ノキアのインターネットタブレット「Nokia 770」のような新世代の携帯情報端末にも現実味が出てくる。
D-cubicの登場は、携帯電話以外のモバイル端末市場の活性化に期待できるだろう。
むろん、課題もある。特に大きな課題が、やはりエリア問題だ。
D-cubicはパワードコムの支持を取り付け、電力10社のサポートのもとでエリア整備が行われる。2007年10月には全国エリアが完成する予定だ。
しかし、これはあくまで「面エリア」の話だ。周知のとおり、モバイル通信ビジネスにおいて面エリアが完成するのは“当然”であり、重要なのは屋内への浸透、3次元エリアの充実である。2.4GHz帯の802.11gを使うD-cubicは、この点で携帯電話よりも不利だ。
パワードコム側は電力系FTTHやPLCとのFMCを考えているようで、記者会見でもPLCへの言及が見られた。だが、屋内/屋外のネットワーク切り替えがどれだけスムーズかつ簡単にできるかは疑問だ。高性能指向性アンテナの設置、商業施設への屋内基地局整備、家庭向けの格安な電波中継器の投入などが課題になるだろう。
他にも、格安なサービスを提供するのはよいが、輻輳を避けるためのトラフィックコントロールを行うことができるか、などモバイル通信ならではの不安はある。携帯電話キャリアが10年以上の歳月をかけて獲得したバランス感覚・ノウハウを、ライブドアとパワードコムがどれだけ短期間に得られるか。ここもD-cubic成功の鍵になる。
課題・不安はあるものの、筆者はライブドアの新規参入に注目をしている。7月末の試験サービスからD-cubicに加入し、試してみようと思う。
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