KDDIのウルトラ3Gショーケース(2月17日の記事参照)の中で、目玉になっていたのがモバイルWiMAX関連の展示である。同社はモバイルWiMAXをウルトラ3Gの重要なコンポーネントと位置づけており、EV-DOなど携帯電話インフラと補完しながらサービスを展開する計画だ。
KDDI執行役員技術統括本部長の安田豊氏は「高速大容量のモバイル無線通信であり、都市規模のエリア展開に適した方式である点など、モバイルWiMAXの(導入)メリットは大きい。ビット単価の低減も期待できる」と話す。
今回のモバイルWiMAX実証実験では大阪市内に3つの実験用基地局を設置しており、基地局間のハンドオーバーや距離や移動速度に応じてのスループットの変化を測定している。その結果、「基地局あたりの有効なセル半径は約1km程度で、これは都市部における3G基地局(配置)とほぼ同じ」(安田氏)で、平均実効速度も6〜7Mbps程度が確認できているという。
さらにモバイルWiMAXの実験用基地局は、既存の携帯電話基地局と共用タイプとして開発・設置している。これはモバイルWiMAX基地局を携帯電話基地局と重畳させていくというKDDIの方針を実現する上で、重要なポイントだろう。
バスを使ったモバイルWiMAXの公開実験では、移動時における速度変移や基地局間ハンドオーバーの様子の実演が行われた。モバイルWiMAXは適応変調方式を採用しており、電波状況に応じて最適な変調方式を自動的に選択していく。乱暴な言い方をすれば、基地局に近いほど速度は速くなり、離れるに従って速度が低下、最終的には別の基地局に切り替わる。
公開実験では、バス車内に複数のライブカメラからの映像とVOD(ビデオ・オン・デマンド)のコンテンツを流し、さらに車内では4台のPDAにもVOD配信を行った。これらすべての利用で消費する帯域は3Mbpsほどであったが、バス走行中も途切れることなく映像が流れていた。
また、実験基地局のうち1基は都市高速道路沿いに設置し、高速走行中のクルマからの接続も実験したという。
「高速移動時のドップラー効果の影響なども精査しましたが、時速80km程度では移動速度による速度低下の影響はほとんど見られなかった。ラボでは時速120kmまでの対応が可能という結果も出ており、クルマなど高速移動体での利用にも(モバイルWiMAXは)適していることがわかった」(技術説明員)
しかし、モバイルWiMAXは都市型のサービスという事もあり、「新幹線までは想定していない」という。
発表会が行われたホテル会場では、モバイルWiMAXとEV-DOの異なるネットワークメディアがシームレスに切り替わる実験が行われた。
テレビ電話サービスを使ったデモンストレーションでは、モバイルWiMAXとEV-DOで切り替えるたびにフレームレートが変化し、映像クオリティが自動的に最適化される。この切り替えがスムーズなだけでなく、ハンドオーバー時の速度変化でも映像が途切れないように自動調整するソフトウェアも新開発されたものだという。
「メディア間ハンドオーバーでは切り替え時に両方のメディアにデータを通すシームレスハンドオフと呼ばれる方式を使います。さらにバッファ制御で速度差によるサービスの変化が急激に起こらないようにコントロールしています」(技術説明員)
実際のデモを見ても、ハンドオーバー時に映像が途切れることなく、唐突にコマ落ちするような切り替えにもならなかった。モバイルWiMAXからEV-DOへの切り替えでも、一拍おいて動きがゆっくりになり、映像クオリティが下がる印象だ。もちろん、モバイルWiMAXの時は1Mbpsの帯域を使うので、映像はクリアーかつスムーズだ。まだ実験システムとはいえ、看板に違わぬ“シームレス”な多層環境が実現していた。
モバイルWiMAX活用の展示で目を引いたのが、家庭内のHDDレコーダーをPDAから制御し、モバイルで映像を見るというデモンストレーションだ。そのコンセプトはまさしくソニーのロケーションフリーTVであるが、「モバイルWiMAXはWiFiの公衆無線LANアクセスよりも広い範囲で利用できるのがポイント」(説明員)だという。これが実現すれば、現在のロケフリよりも場所に縛られずにHDDレコーダーの映像が楽しめるようになる。コンシューマー向けとしては、かなり訴求力のあるサービスになるだろう。
今回のウルトラ3Gショーケースでは、モバイルWiMAXを始めとする同社の次世代ネットワーク時代に向けた技術が、最終的なサービスのイメージを持って開発されていたのが印象的だった。特にモバイルWiMAXは商用化を前提に着々と準備が整っているようだ。同社の普及プロセスに対する考えも現実的である。周波数と免許の取得がスムーズに進めば、モバイルWiMAXの商用化と普及はそれほど遠い話ではなさそうだ。
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