2月21日、ウィルコムは2.3GHz帯の5MHz幅を用いて行っている次世代PHSシステムの実験をプレス向けに公開した。1月27日に実験用の免許を取得(1月27日の記事参照)してから3週間。その間に行った実験の内容と、実際の通信デモを披露した。
ウィルコムは2010年ごろの実用化を目指し、現在展開しているPHSサービスの技術的特徴を基本とした高速、大容量ワイヤレスブロードバンドシステムの実験を行っている。現行PHSの特徴や基地局装置を継承しつつ実用化する予定だ。
この次世代PHSの特徴として、開発本部長の黒澤泉氏は以下の5点を挙げる。
また、基本的には現行PHS基地局と同位置に基地局を配置したいこと、すでに16万カ所以上に展開しているPHSの基地局と基地局装置を有効活用していくことなどを明らかにした。
今回ウィルコムが手がけている次世代PHSシステムは、PHSの振興団体、PHS MoU(PHS Memorandum of Understanding)での標準化も進めている。現在はワーキンググループとして活動している次世代PHSの組織を、2月28日に開催するPHS MoUの総会以降は、上位組織へ格上げする予定だ。黒澤氏は、今後のPHSの展開について「日本だけでなく、中国などでも次世代システムとして利用できるよう規格化していきたい」と話した。標準化する内容についてはまだ検討中であり、詳細は言えないとしながらも、大枠は今回の実験で用いているものを踏襲するという。OFDMAのサブキャリアをいくつ用いるか、どれくらいの速さの移動体にまで追従するか、といった細かなスペックを今後詰めていく。
次世代PHS | 現行PHS | |
---|---|---|
周波数帯 | 1〜3GHz | 1.9GHz |
最高伝送速度 | 上下それぞれ20Mbps | 上下それぞれ1Mbps |
アクセス方式 | OFDMA+TDMA/TDD | 4 TDMA/TDD |
キャリア周波数幅 | 5M〜20MHz | 300kHz |
フレーム長 | 5ms上下対称 | 5ms上下対称 |
変調方式 | BPSK〜256QAM | BPSK〜256QAM |
音声コーデック | SIP準拠 | G.726 ADPCM |
セル構成 | マイクロセル | マイクロセル |
周波数有効利用技術 | アダプティブアレイ、SDMA、MIMO | アダプティブアレイ、SDMA |
周波数帯やキャリア周波数幅は、今後総務省から割り当てられる帯域によって変わる |
実験は、虎ノ門地域のビルに基地局を設置して行っている。具体的には、ウィルコム本社ビルの屋上に屋外局アンテナを設置し、警視庁前からウィルコム本社前までの、桜田通り沿い500メートルほどのエリアをカバーする。
この桜田通り沿いで、電波伝搬特性やスループットの特性の評価を行っているわけだ。実際にアプリケーションを用いたテスト、走行中の自動車内でデータの送受信を行うテストなども実施している。現在は基礎データの収集中で、今回の実験で得られたデータを基に、システムを開発する。
報道陣に公開したデモは、実験用の基地局とアンテナ、端末、それにノートPCを屋内に設置して行った。主な内容は、回線計測サイトを使ったWebページからのデータのダウンロード、専用サーバーからのストリーミングビデオ再生、PC間でのビデオチャット、PCからのインターネットアクセスなどだ。
Webページを用いたダウンロードテスト(1Mバイト同時2接続)の速度は平均1.859Mbpsを記録。ストリーミングビデオの再生は平均2.2Mbps程度、最大2.4Mbpsでの転送を記録した。同時に2台の端末からアクセスしても、それぞれと1.5Mbps程度ずつ、基地局側では3Mbpsでの通信が可能だった。ビデオチャットでは、動画は多少コマ落ちしてカクカクした動きもあったものの、音声はクリアで実用も可能という印象。インターネット経由でGyaOのニュース番組を視聴するデモでは、およそ1.7Mbps程度で映像を再生していた。
企画開発部課長補佐の安藤高任氏は「直前の実験では、ダウンロードテストで2.5Mbps程度出ていたので、今回のデモの結果は不本意」と話したが、現在はOFDMAのノウハウを蓄積している段階で、本格的な運用にまでは至っていないこと、実験に用いている米Adaptixの端末が、現行PHSより受信特性が悪かったり、無線のチューニングを行っていなかったりすることなどが理由で、伝送速度は最大3Mbps前後しか出ていないと報告した。
今回の実験で用いたシステムでは、理論上の伝送速度が下り方向で16QAMの3Mbps、上り方向でQPSKの1Mbpsだったため、実際のデータ転送速度も2Mbps台と驚くほどの速さではなかった。しかし2006年夏には、理論上の伝送速度を20Mbpsに引き上げ、第2段階の実験に入るる。最終的には、端末側で20Mbpsオーバーの実効伝送速度の実現を目指す計画だ。
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