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PiTaPaはなぜ“ポストペイ方式”なのか――スルッとKANSAIに聞く(前編) (3/3)

2006年04月10日 11時49分 更新
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磁気式プリペイドカードでわかった利用者の不満

 さらにポストペイ方式の採用は、各私鉄・バス会社のコスト削減だけでなく、利用客に対する「サービス向上・改善」に繋がる。この点をスルッとKANSAIでは重視したという。

 「投資コストの安い方式というのは、サービスレベルにおいては(投資コストの高い方式より)劣るという固定観念があるのですが、ポストペイ方式はそうではない事に気づきました。

 例えば、Suicaなど(他のプリペイドICカード方式)ではチャージが必要ですが、お客様は本当に『チャージがしたい』と考えているのでしょうか。これは磁気式プリペイドカードを導入して分かったのですが、(プリペイド方式は)『残額』にまつわるお客様の不満が非常に多い」(松田氏)

 松田氏は磁気式プリペイドカードが判明した、プリペイド方式へのお客様の不満として大きく5つを挙げる。

  1. カードの残額が少なくなると使えなくなり、乗越精算機の利用が面倒
  2. カードは前払いにも関わらず、割引やおまけがない
  3. カードが駅構内の売店や公営施設などの支払いに使えない
  4. カードが他の交通機関で利用できない
  5. 回数券と定期券でどちらが得なのか分かりにくい。利用後、損をすることがある

 「我々は磁気式プリペイドカード導入時に『切符を買わずに乗り降りできる』とPRしたのですけれど、サービス開始後すぐにお客様から『(広告は)ウソやないか!!』と非常に多くのクレームをいただきました。確かに切符は買わずに乗り降りできるけれど、何回かに1回は必ず、カードを買い直したり、乗り越し精算しなければならないじゃないか、とお客様に怒られたのです。

 プリペイド方式を取る以上、非接触ICカード化しても、ご利用前のチャージ(プリペイド)や、残額を意識しなければならない部分が残ります。磁気式プリペイドカードで多くの苦情をいただいたことを鑑みると、お客様がこれら(チャージや残額確認)を望んでいるとは考えられない」(松田氏)

 他にも、ポストペイ方式が有利な点がある。それが割引や定期券など料金にまつわる部分だ。

 「もうひとつお客様からの苦情が多かったのが、(カード購入で利用が多いのに)『なんでオマケがないの? おかしいんやないの?』というご意見です。これはものすごく言われました。

 また、回数券と定期券のどちらが得かがわかりにくいというご意見もありました。週休二日制が浸透してまいりますと、(どちらが得かは)非常に微妙なんですね。今でも通勤には定期券がお得だと思われる方が多いのですが、週休二日制だと実際は回数券の方がお得になるケースが多くなります。以前から割引制度が分かりにくいという意見があり、それらの改善も必要でした」(松田氏)

PiTaPaでコスト削減とサービス改善

 コスト削減の課題と、磁気式カード導入で噴出した数々の問題。これらを解決する手段として、2004年4月に非接触IC FeliCaを使ったポストペイ方式の「PiTaPa(Postpay IC for "Touch and Pay")」が誕生した。

 「現行の磁気式システムはそのままに、ポストペイ方式によるサービス改善、『プラスα』のサービスとしてPiTaPaを導入しました。スルッとKANSAI加盟各社とお客様にとって、選択肢が広がるという形にしたのです」(松田氏)

 PiTaPaはポストペイ方式を前提にし、駅設備の対応は自動改札機を中心とした改修のみ。自動改札機においても、従来型の磁気対応改札機に後付けできるFeliCaリーダーライターを導入し、設備投資コストは最小限に抑えられる仕組みとした。

 一方で、利用者側の利便性向上については、前出の5つの課題すべてをクリアーする内容になっている。ポストペイ方式なのでPiTaPaカードの発行さえ受ければ、その後は事前入金や乗越精算といった手続きは必要ない。電子マネーとしての利用とJR西日本との相互利用も当初から計画された。

 さらにPiTaPa最大の特徴が、割引適用のきめ細かさだ。PiTaPaでは1ヶ月分の利用が集計されたときに、各利用区間の実績に応じて定期券もしくは回数券と同率の割引が適用される。ユーザーが意識することなく、利用状況に応じて「自動的に安くなる」のがポイントだ。事前の手続きなどは必要ない。

 「PiTaPaは(磁気式)プリペイド方式を導入した事による、お客様のすべての不満・ご要望に応えていくことを目的にしました。ですから、サービス面において現時点で最良のものであるという自信を持っています」(松田氏)

 PiTaPaは、なぜポストペイ方式なのか。

 その答えは、磁気式プリペイドカードの単なる代替ではなく、磁気式プリペイドカードの課題を解決する「サービス改善」と、導入する私鉄・バス会社の投資負担を軽減する「コスト削減」の両立を強く意識した点にある。PiTaPaがポストペイ方式なのは、合理的かつ当然の選択と言えるだろう。

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[神尾寿,ITmedia]

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