Yahoo! Japanはソフトバンクと何を目指すのか――ヤフーに聞く Interview: (2/3 ページ)

» 2006年08月05日 04時23分 公開
[神尾寿,ITmedia]

ソフトバンクと距離を縮めるメリット

 ポータルサイトのビジネスやブランド力を考えるならば、Yahoo!モバイルは今でもかなり有利な位置にいる。確かにキャリアの公式コンテンツにそのまま入ることはできないが、Yahoo! Japanのネームバリューと、そこにある多くのサービスが3キャリアすべてから利用できるだけで訴求力がある。Yahoo! Japanにとって、携帯電話キャリアの“1つ”になったソフトバンクにあえて近づくことは、どのようなメリットがあるのだろうか。

 「まず基本的な部分として、今後、Yahoo!のサービスが3キャリアで見られなくなるということはありません。Yahoo! BBの時もそうでしたけれど、(ADSL事業者になったことで)Yahoo!のサービスが他のISPから利用できなくなるということはなかった。ソフトバンクが携帯電話キャリアになったからといって、Yahoo!モバイルのサービスが3キャリアで等距離の位置づけになることは変わらないと思っています」(松本氏)

 しかし、PC向けインターネットのサービスと、携帯電話向けのサービスで決定的な違いになるところもあるという。

 「PCの世界は端末(PC)が誰でも組み込みで作れる。そして(OSとして)Windowsが載っていて、その上でInternet Explorerが動く。この部分まではすべて決まっていて、それを前提にインターネットの世界があり、Yahoo!のようなサービスを作っていけばよかった。

 しかし、携帯電話の世界は端末やOS、ブラウザ、さらには通信インフラの部分がPCやインターネットのように(完全な水平分業に)なっていない。すべてを見通せるのは携帯電話キャリアですけれど、彼らはビジネススキームがまったく違うので(インターネット型の)サービスは作れない。やはり我々のようなネット企業がキャリアの身内にならないと、いつまでたっても携帯電話の世界は『きちんとしたインターネット』にならないのです」(松本氏)

 いいか悪いかは別として、これまで携帯電話ビジネスとインターネットビジネスは「まったく別のもの」だった。これは紛れもない事実である。1999年のiモードから始まった携帯電話向けデータ通信ビジネスは、インターネットの標準技術を携帯電話ビジネスに合うように解釈し、独自性を加えて取り込んだものだ。携帯電話キャリアが端末やサービスプラットフォーム、通信インフラをコントロールするため、コンテンツ・サービス提供者側の自由度・選択肢が制限されているのが現状だ。

 「ソフトバンクは(ボーダフォンを買ったことで)携帯電話をインターネットにしようとしている。これはYahoo! Japanにとっても第一義かつ重要なことです。そのためには(端末開発やサービスプラットフォーム、通信インフラ構築など)根っこの部分から我々が理解する必要がありますから、キャリアと手を組む必要がある。水平分業でオープンになっていない部分を理解する上で、ソフトバンクと連携することが重要なのです」(松本氏)

次のステップは「AOL的な世界」

 松本氏は携帯電話キャリアが仕様を決める現在のコンテンツ・サービスプラットフォームについて、「一昔前のパソコン通信の世界」と表現する。その上で、次に訪れると予想するのが「AOL的な世界」(松本氏)だという。

 「AOLはインターネットの接続事業者だったわけですが、インフラとポータルをしっかりと(結びつけて)作っていた。その点では『勝ち組』だったのです。携帯電話は今後インターネット化していきますが、その時のステップとして限りなくAOLに近い世界を体験すると考えています。Yahoo! Japanとしては、このAOL的な段階をしっかり用意していきたい」(松本氏)

 この段階でまず最初に取り組むのは、端末やプラットフォーム仕様の点で協力を得やすいソフトバンク向けであるが、将来にわたり「ソフトバンクだけ」に囲い込む考えもないという。

 「我々はサービス分野を得意としていますから、もしドコモやauが(端末やプラットフォーム仕様など)下位のレイヤーまでソフトバンクと同じように解放していただけるのであれば、Yahoo! Japanとしては積極的に(他キャリアにも新しいサービスを)提供したいと考えています。我々が目指しているのはインターネットの世界であって、ドコモやauからまったくアクセスできないYahoo!を作りたいわけではないのです。

 我々は1999年から始まった携帯電話コンテンツの世界を否定していませんし、キャリアが課金プラットフォームなどを提供するメリットもあると考えています。しかしPC向けインターネットが『Web 2.0』となったように、モバイルも2.0の世界に進化する必要がある。そのためには従来の垂直統合ではなく、きちんと(水平分業の)インターネット化していかなければならないと思います」(松本氏)

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