連載
» 2006年08月07日 13時00分 公開

FOMAにテレビ電話は不要だと考える3つの理由神尾寿の時事日想:

最近、仕事の打ち合わせなどでビデオチャットを重用している。一方、古い考え方や感覚をひきずった映像コミュニケーション技術は普及しない――FOMAのテレビ電話を思い返すと、しみじみそう感じてしまうのである。

[神尾寿,ITmedia]

 今さらながらであるが、ビデオチャットにはまっている。直接のきっかけは、筆者も寄稿するレスポンス編集長の三浦氏が1ヶ月間の北米出張にMacBookを伴っていったため。これまでも仕事の打ち合わせをSkypeで行うことはあったが、MacBookはビデオチャット用のカメラも内蔵している。せっかくなので、日米間で「国際ビデオチャットで打ち合わせをしましょう」ということになった。

 利用しているのはアップルコンピューターの「iChat AV」である。筆者のメインマシンであるiMac G5はカメラが内蔵されていない世代なので、アップルストアで「iSight」を購入した。実際に使ってみると音声はクリアーで、映像の乱れも少なく、実用的に使える。しかも楽しい。筆者はテレビ電話に懐疑的だが、ビデオチャットならば新たなコミュニケーション手段として受け入れられると感じた。今もiChat AV仲間を増やそうと画策中である。このままいくと出張・外出用にMacBookも買ってしまいそうだ。

携帯テレビ電話はなぜダメなのか

 筆者はFOMAのテレビ電話も日常的に使う“努力”をしてきた。そして、ことごとく挫折してきた。なぜ携帯TV電話はダメで、ビデオチャットは受け入れられたのか。そこには大きく3つのポイントがあると思う。

 1つ目は「映像コミュニケーションは本質的にぶしつけ・失礼」だという点だ。携帯電話に電話をかけることは、ただでさえ相手の時間に割り込む「ぶしつけなコミュニケーション」である。さらにテレビ電話で映像コミュニケーションを求めることは、相手の都合はおかいまなしに“顔を見せろ”と要求する。携帯電話の“いつでも・どこでも”というメリットが、テレビ電話にとっては逆にネガティブな要因になる。

 一方、ビデオチャットの場合、利用できるのは「PCの前」にいる時に限定される。自宅もしくはオフィスの席が圧倒的に多いだろう。さらにプレゼンス情報があるので相手の状況が分かる。また筆者は、テキストチャットで「ビデオチャットできる?」と聞いてから開始するようにしている。このように“相手の状況に配慮できる”のは重要だと思う。

 2つ目のポイントは料金だ。テレビ電話に限らず、サービスにおけるプラスαの付加価値は「従来と同じ料金負担で実現する」のが普及の大前提だ。高機能にしましたから利用料金は上がります、という提供者側の理屈では、ユーザーの理解を得るのは難しい。しかし周知のとおり、携帯電話のTV電話は音声通話よりも高い料金を設定している。これでは普及しないのは当然だ。

 その点、ビデオチャットは「電話」ではなく、データ通信の「チャット」の一形態なので、ブロードバンドサービスの1つとして利用できる。従来の電話よりも安く、音声と映像のコミュニケーションが利用できるのがポイントだ。回線交換方式の携帯TV電話を、ブロードバンドの通信環境を前提にしたビデオチャットと同じ俎上で比べられないが、こと「普及させる」ことを考えるならば、携帯TV電話は音声通話と同じか、それ以下の料金で利用できる技術・仕組みの導入を考えるべきだった。“高機能だから高い料金のサービス”というのは提供者側の怠慢だろう。

 そして3つ目のポイントは映像クオリティである。テレビ電話のメリットは、“相手の表情が読める”ところにある。だが、残念ながら今のFOMAのテレビ電話機能は、映像クオリティがユーザーの期待値を下回っていると思う。ここは通信インフラの問題なので致し方ない部分であり、FTTHやADSLのブロードバンド環境を使うパソコンのビデオチャットと比べるのは酷だろう。だが、現在の3Gのインフラ技術では携帯TV電話は“少し早すぎた”と言えるかもしれない。今後の3G高速化技術に期待したいところだ。

新しい皮袋に新しい酒を

 現在の携帯テレビ電話はコンセプトと技術の両面で中途半端であり、これを新たなコミュニケーションサービスとして普及・利用促進するのは無理がある。端末コストの上昇を伴ってまで搭載すべき価値があるのか、もういちど考える時期にあるのではないか。特にFOMA 70xシリーズのような普及モデルは、テレビ電話機能よりも、おサイフケータイやBluetoothなど、携帯電話ビジネスの可能性を広げる機能の搭載を優先すべきだ。

 むろん、映像コミュニケーションの世界そのものが将来にわたって「ない」とは筆者も思わない。しかしそれは、従来型の電話サービスの延長線上ではなく、データ通信サービスの中でまったく新しいものとして実現されるべきだろう。その点で、iChat AVやSkypeなどビデオチャット機能を持つメッセンジャーソフトは、近い将来における様々な示唆に富んでいる。ある携帯電話キャリアでは、社内でSkypeやMacintoshの利用が禁止されていると聞くが、それは大きな間違いだ。携帯電話キャリアやメーカーの関係者は、電話とは違う発想で作られた新たなコミュニケーションツールを積極的に仕事で使ってみるべきだ。

 新しい皮袋に古い酒ばかり入れてもしかたない。そろそろ電話の時代から決別し、新しい酒を探す時期である。携帯テレビ電話の見直しは、その最初の例として悪くないと思う。

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