3年後には「10年後に業界1位」を現実感あるものに──ソフトバンクモバイル松本氏に聞く(後編)Interview(2/2 ページ)

» 2006年10月16日 22時07分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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MediaFLOは「一刻も早くやりたい」

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 松本氏はクアルコムジャパンに在籍していた頃、MediaFLOの可能性を説いていたことでも知られる人物だ(5月26日の記事参照)。ソフトバンクは7月18日、独自にMediaFLOの新サービスや技術調査を行う企画会社「モバイルメディア企画」を立ち上げているが(7月18日の記事参照)、松本氏の合流でMediaFLO分野の動きも加速するのだろうか。

 「MediaFLOは一刻も早くやりたい。これは孫社長自ら強い興味を持っていますし、(ソフトバンクの掲げる)メディア融合の道を考えても、MediaFLOの早期導入は当然のことだと考えています」(松本氏)

 日本ではモバイルメディア企画よりも先に、KDDIとクアルコムジャパンが出資するメディアフロージャパン企画が設立されている(2005年12月22日の記事参照)。松本氏にとっては古巣の子会社が当面のライバルとも言えるわけだが、「Qualcommは、技術は誰にでも平等にライセンスするポリシーを持っている。不利な状況ではない」(松本氏)と喝破する。

 「またMediaFLOの思想には、できるだけ(コンテンツやサービスを)共通化しようというものがあります。これは我々も理解するところですから、可能であればKDDIやドコモと一緒にやっていきたい。コアの部分は各キャリアで協調してやっていき、独自性は細かなサービスの部分で出していく。ドコモが推進するおサイフケータイと同じようなスタンスになるのが望ましいと考えています」(松本氏)

 松本氏はMediaFLO分野において、他キャリアとの競合よりも、早期のサービス開始と普及の方を重要視している。

 「総務省に働きかけて、まずは地方などでTV局が使っていない、空いている周波数を借りるという形で(MediaFLOを)始めたい。目標は2008年の前半です。むろん、この際に総務省が(ソフトバンクモバイルと)KDDIの協調路線を求めるならば、それに従うことはやぶさかではない。KDDIさえよろしければ、ソフトバンクサイドは協調路線にまったく異存はありません」(松本氏)

 QualcommはMediaFLO対応の「UBM」(ユニバーサル・ブロードキャスト・モデム)において、470〜862MHzの周波数に対応し、ワンセグとDVB-Hにも対応した。さらに与えられた周波数に柔軟に追随できる「MFN」(マルチフリークエンシーネットワーク)機能も搭載。この第2世代のMediaFLOチップならば、地方局の空いている周波数をジグソーパズルのようにつなぎ合わせて利用することができる。松本氏は2008年までにこの方式でサービスを開始し、2011年の周波数再編で正式な周波数獲得をしたい考えだ。

 「ワンセグが成功していますから、これはもう理想的な展開になっています。ワンセグが2年先行することで、携帯電話でテレビを視聴するスタイルが定着する。これにペイ・パー・ビュー(PPV)などを加えて、多チャンネルを実現。さらにクリップキャストも可能にする。(市場の熟成を考えると)2年後というタイミングは理想的です」(松本氏)

 また、日本では多チャンネル/有料のテレビ放送は成功しないという意見に対して、松本氏は明確に反論する。

 「私は伊藤忠時代に多チャンネル放送の立ち上げをして苦労しましたから、多チャンネル放送のことは熟知しています。ここで何が普及の課題になるかというと、視聴開始のハードルが高いんですよ。契約や月額料金、視聴機器の購入と設置工事などが必要で、これが視聴者が増えない最大の原因になっていました。

 しかし、MediaFLOは携帯電話の機能として、携帯電話コンテンツの感覚で視聴が始められる。PPVができますし、月額課金でも解約が楽です。家庭のテレビ向けの多チャンネル放送と、携帯電話向けの多チャンネル放送はまったく別物だと考えた方がいい」(松本氏)

 筆者もこの意見には共感している。携帯電話における多チャンネル放送は、これまでの“携帯電話コンテンツ”の延長線上のリテラシーや経済感覚の上で成り立つ。分野は違うが、ドコモのDCMX miniが急速に利用者数を拡大しているのも、携帯電話コンテンツに似た感覚でFeliCa決済が利用できるからだ(4月4日の記事参照)。MediaFLOによる多チャンネル放送は、固定テレビ向け多チャンネル放送よりも携帯電話コンテンツのビジネスモデルに近くなるだろう。となれば、成功する可能性はあると思う。

ソフトバンクとQualcommの関係は?

 松本氏はクアルコムジャパン、そしてQualcommの幹部を歴任した。Qualcommは世界中のオペレーターと等距離で接することを是としているが、日本ではこれまでauと密接に連携してきたのは周知のとおりだ。松本氏の移籍により、ソフトバンクモバイルとQualcommやクアルコムジャパンとの関係に変化はあるのだろうか。

 「私がここ(ソフトバンクモバイル)にきて驚いたのは、Qualcommのチップセットロードマップや、BREWが実はLinuxと親和性が高いということなどが知られていないことなんですね。情報が入ってきていない。

 さらに、これはQualcommのことだけじゃないんですよ。キャリアは他のサプライヤーも含めてさまざまな要素技術やソリューションの現状と将来性に対してハイレベルな情報を持っていなければならないのですが、(今までのボーダフォンやソフトバンクは)それが不足していた。

 ですから、まずはさまざまなサプライヤーの技術やプラットフォームの情報を集める。その上で、品質の向上とコスト削減に繋がるものを比較検討し、(次に採用するべきものを)決めていきます」(松本氏)

 ソフトバンクモバイルの立場からすれば、Qualcommもサプライヤーの1つとして比較検討する対象になる。あくまで技術的合理性に則って、採用するチップセットや技術は決めていくという。だが翻ればこれは、Qualcommやクアルコムジャパンが、以前から日本のキャリアに望んでいたスタンスでもある。Qualcommはキャリアに対して常に、技術的合理性や公平な比較検討を求めてきたからだ。

 「キャリアとメーカー、そしてサプライヤーにとって本当に大切なのは、市場とユーザーのニーズがどう変化するかです。どうすれば技術が市場とユーザーに受け入れてもらえるか。(重要なのは)これを見極めた上で、いいものが早く作れるかじゃないですか」(松本氏)

 ソフトバンクモバイルが今後、Qualcommとどのような関係を築いていくかは不分明だが、従来よりも踏み込んでサプライヤーの技術やコストを精査・選択する姿勢になるのは間違いない。技術力の高さを武器にするQualcommにとってそれは悪いことではなさそうだ。

3年後、業界1位も「まさか」ではない状態に

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 ソフトバンクモバイル、そして松本氏の挑戦はまさに始まったばかりだ。今は課題と問題が山積しているが、その解決と立て直しは急ピッチに行う模様だ。具体的な目標は3年後である。

 「私の目標ははっきりしています。ソフトバンクモバイルは10年で業界1位を目指すという目標を掲げていますが、3年後には(周囲に)『まさか』『馬鹿な』と思われない状況にすることです。10年後のトップが現実感を帯びるまでに、3年後にはしておきたい」(松本氏)

 そこに至るまでに奇手奇策はないと、松本氏は話す。

 「まずは(インフラ・サービス・端末など)基本的な部分で他社と並び、ネットとの融合で他社を凌駕する。携帯電話で使うネットサービスはこういうものか、とユーザーに認めていただけるものを作りたい。来年の後半くらいには、『なるほど』と思っていただけるようにします」(松本氏)

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