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2003/06/26 23:54:00 更新 |
家電動画とMPEG-4の未来(前編)
なぜMPEG-4なのか?
MPEG-4を採用するデバイスが増えてきた。パーソナルビデオレコーダーやホームサーバをはじめ、携帯機器、キャプチャーボード、そしてメディアプレーヤーなど。しかし、MPEG-4は決して新しい規格ではない。なぜ、今MPEG-4に注目が集まっているのだろうか?
今さらながら、パーソナルビデオレコーダー(PVR)という分野が話題になっている。基本的にはテレビ番組などをディスク記録して楽しもうというものである。これにさらにネットワーク機能を追加して、単にスタンドアローンのデバイスではなく、ホームネットワークで楽しむための機器とした、いわゆるホームサーバというヤツが盛り上がりつつあるというのも、皆さん周知の通りである。これを収録するためのフォーマットとしては、これまではDVDなどと同じMPEG-2というのが一般的だったのだが、ここに来て、「MPEG-4系」の技術も採用されるようになってきた。
例えば、シャープの「ガリレオ」。こちらは、一旦MPEG-2で記録したものを、他のデバイス(パソコンやザウルス)で扱うためにMPEG-4に変換するというコンセプトである。それから、バーテックスリンクの「MediaWiz」などは、MPEG-1、2、4、AVI、QuickTimeなどに対応している。DivXにも対応しているが、DivXというのは、カテゴリーとしては、「MPEG-4の動画圧縮を使ったAVI」の1つである。
これらはちょっとだけコンセプトが違うワケだが、どちらもMPEG-4の高圧縮率という点に着目している点では同じである。
上はPC内のファイルをTVなどに出力できるバーテックスリンクの「MediaWiz」。下はシャープのホームサーバ「ガリレオ」。録画ファイルをMPEG-4に変換し、ザウルスなどで外に持ち出すことができる。詳細はこちら
ケータイ動画も熱い……かな?
上記のPVR系技術がどうして盛り上がっているか? これはもう、使った人であればわかるのだが、テープのようなリニアなメディアでなく、ランダムアクセスできるメディアを使えば、頭出しその他が非常にラクなのだ。メーカー側も、技術の進化を便利な方向に向けているわけで、「容量が足りない」となれば、今度は圧縮率の高い技術でそれをクリアする、という開発の仕方をしている。デジタルメディアの存在を理解している人間からみれば、ごく当たり前の流れである。
一方で、動画が盛り上がっていそうなデバイスとして、携帯電話というヤツがある。CMを見ている限りではケータイ動画全盛である。多くの携帯電話で動画でのやりとりができるようになりつつあり、キャリア側もそれをアピールして盛り上げようとしている点は間違いない(記事参照)。
ただ、実際に扱っている人はあまり見かけないものだ。「キャリアによってフォーマットが違うため」という技術的な問題もさることながら、「必然性」ということを中心に考えると先ほどのPVR系のデバイスとは全然違うのだ。PVRのように、もともと録画する習慣があったものに対して「もっと便利にしていきましょう」ということと、ケータイ動画のように、「別の機能をくっつけたら面白いでしょ? だから使ってみましょう」というのではエラい違いだ。そもそも、われわれはハンディのビデオカメラを持っていても、「ここ一発」という場面でしか使わないものだ。動画撮影の習慣がない中で普及させるというのは、なかなか難しいものである。
とはいえ、それは「難しい」というだけの話であって、このケータイ動画によって新しいコミュニケーションのスタイルが生まれる可能性は高い。これから注目したい分野である。そして、この分野でも動画圧縮としてはMPEG-4が中心として扱われている。
MPEGについての基礎知識
このように、デジタル動画はパソコンを離れ、さまざまなデバイスで活用できるようになってきた。それだけ技術が熟れてきたということだろう。では、その中で扱われている技術としてMPEG-4が多いのは、何故だろうか? それを考える前に、MPEG(Motion Picture Experts Group)という団体がナニモノなのか、MPEG-4とはナニモノなのかを、簡単に説明したい。
MPEGというのはISOの下部組織であり、「デジタル動画のオープンな国際標準規格を作りましょう」ということで立ち上がった団体である。まず、ここが重要である。そして、そこで最初にできた規格がMPEG-1。これはCD-ROMなどをターゲットとして策定された規格で、Video CDなどで活用されている。
次がMPEG-2。これはより高いビットレートでの高品質な映像を目指して放送などをターゲットとして策定されたもの。DVDなどでも扱われている。さらに、HDTVなどをターゲットとしたMPEG-3という規格が考えられていたが、「お、MPEG-2でもできるじゃん」ということになり、これは2の中で扱われることになり、3は幻の規格となった。
次にネットワーク経由での動画配信のための低ビットレートの規格として考えられたのがMPEG-4である。MPEG-4くらいまで圧縮率が高まれば、さまざまな場面で扱える。だから注目されているというワケである。
ところがそのMPEG-4、単に低ビットレートでの使用だけを考慮に入れたものではない。いろいろな用途で扱われることが想定され、規格自体がどんどん拡張されていった。動画圧縮としても、低ビットレートから高ビットレートまで、広範囲にわたって利用できるようになっている。さらに、MPEG-4は動画圧縮だけについて考えられたものではない。ファイルの中でインタラクティブな動作ができるように考えられており、さらにはCGなどを扱えるようになっている。
かなり複雑なのだ。だから、先ほどのDivXのような「MPEG-4動画圧縮を扱ったAVIファイルフォーマット」から、「MPEG-4動画圧縮を扱ったMPEG-4ファイルフォーマット」まで、いろいろと存在し、ワケがわからなくなってしまうことも多いワケなのだ。
なぜMPEG-4か?〜オープンだから
さて、一方で、世の中にはさまざまな動画圧縮技術、ファイルフォーマットというものがある。Windows Media 、Real Media、そして最近ではXVDなど。そして、これらは必ずしもMPEG-4より品質が劣っているわけではない。では、なぜMPEG-4ばかりが採用されるのか?
ズバリ、「MPEG-4はオープンな国際標準規格である」という点がポイントなのである。例えば、A社が技術を握っている場合、B社が自社デバイスでその技術を採用しようとした場合、技術が開示されていなければ、A社のエンジンを活用するしかない。そこにバグが存在しても、簡単には回避できないことになる。
また、A社がバージョンアップによって扱うコーデックを変更したらどうなるか? ソフトウェアだったらまだしも、ハードウェア製品の場合、対応するのが困難である。また、A社が急にライセンス料金を引き上げた場合にはどう対応すればいいか? さらにはA社が潰れてしまったらどうなるか?
……といったことがあるから、メーカーはオープンな標準フォーマットが選びたがるのだ。ただ、もちろん、Windows Media技術を搭載したデバイスもいろいろと登場している。マイクロソフトもPCだけでなく、家電分野に真剣に取り組もうとしている。松下と共同でディスクフォーマット「HighMAT」などを考えたというのもそのあらわれである。
こういった「独自フォーマット普及活動」は、それはそれで展開されているし、今後も続く。だが、ユーザー側からすれば、多くのデバイスの間で互換性があったほうが有難い。パソコンや家電デバイスなどをまたがって利用できなければ魅力は半減である。となると、よほどの大きな影響力を持つ会社でなければ、家電分野で標準を作り出すのは難しいだろう。
そういった意味では、やはりマイクロソフトのWindows Mediaには注目すべきだろう。さしずめ、「マイクロソフトVS. MPEG-4」といったところだろうか?(でも、マイクロソフトもMPEG-4のパテントを保有しているから、実はMPEG-4が普及しても儲かるのだ)。
後編では、MPEG-4の普及見通しとクオリティの高さでさまざまな業界の注目を集めている「H.264/AVC」にフォーカスしてみたい。
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[姉歯康,ITmedia]