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» 2015年08月31日 08時00分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:バブル崩壊が生んだBセグメントの隆盛 (2/5)

[池田直渡,ITmedia]

 この影響をまともに食らったのが金融機関で、金融機関では、土地購入資金を融資する際、通常は購入予定の土地を担保にしている。その担保価値に75%も毀損されたら、一瞬にして担保が足りなくなる。銀行は当然追加担保の差し出しを求めるが、企業側もそれが出せる状態ではない。こうしてほとんどの貸付が担保と釣り合わない状態になり、金融機関の不良債権問題に発展した。

 橋本内閣は遅ればせながらその状況に気付き、火だるま改革の敗北宣言をして経済政策を反転させた。世界中から痛烈なバッシングを浴びながら、1996年に6800億円の公的資金を注入して不良債権処理のソフトランディングを企図したのだ。

 当時の経済学者は新古典派とケインズ派の2つに割れて激しい論争を繰り広げていたが、ケインズ的な政府投資による財政政策は極めて不利な状況にあった。「ゾンビ企業を潰して不良債権を処理しない限り日本経済の復活はない」と厳しく指弾されたのである。それを押しての政策転換であったものの、これが遅きに失し、結局翌1997年には日産生命保険、北海道拓殖銀行、山一証券の破たんへとつながるのである。それを防げなかったと言える一方、それだけで済んだとも言える。どちらが良かったのかは今でも判然としないが、少なくともメガバンクを破たんさせるようなことがあれば、20世紀の終わりに日本中が連鎖倒産で危機的状況を迎えたことは確かである。

 さて、こうしてバランスシート不況によって、支出を絞った企業は、借金の返済が終わると、今までの返済原資が一気に利益になり、空前の利益を計上した。しかし一度味をしめた人件費を含むあらゆるコスト抑制は簡単には止められない。特に雇用に関する問題は根深い。新卒で雇用したら最後、少なくとも30年以上はクビにできない。今の社会情勢で30年先の利益を正確に推測するかは困難であるため、企業としては新卒の雇用がリスクでしかないのは間違いない。30年前にソニーや松下電器(現パナソニック)のテレビ部門が会社のお荷物になることを予測しろという話なのだから、それは「神の視点」で見ろということにほかならない。

 ところが右肩上がりを前提に制定された労働基準法を初めとする法律はガチガチで簡単には変えられない。企業は法の隙間を探し続けて、そこに非正規雇用という抜け穴を見つけ出した。企業はこれで安泰になったが、それらの歪みを全部押し付けられた個人は堪らない。収入が減るだけでなく、非正規雇用ではローンを組むのも難しい。こうして今まで「いつかはクラウン」と言いながら次々と大きなクルマに買い替えてきた風潮は完全に終わり、皆がこぞって軽自動車とBセグメントを買い求める時代に変わった。そして同時に一度買ったクルマは長く乗る流れができ上がっていったのである。

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