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» 2015年10月13日 08時00分 UPDATE

スピン経済の歩き方:アリさんマークの引越社が「恫喝映像」をネットに流されてしまった理由 (5/5)

[窪田順生,ITmedia]
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お前たちの身元は信用できない

 実際にこういうトラブルは昨日今日始まったわけではなく、「前兆」もあった。例えば、合同労組側などが問題視する長時間労働に関しては、2006年には、アルバイト運転手(21)が15日間ぶっ続けで働かされ、居眠り運転で事故を起こし、過労状態と知りながら、神戸から横浜までの運転を命じた「引越社関西」の支店長代行が逮捕されている。

 そんな人使いの荒さに対する「報復」なのか、2008年には、さいたま市にある「引越社関東」の事務所から50メートルほど離れた駐車場で不審火が起きて、ワゴン車と軽ワゴン車の2台が全焼した。現場には家庭用ガスボンベ2本が破裂した状態で落ちていたという。

 ただ、このような「前兆」もさることながら、この会社が抱える労使問題の根っこをたどっていくと、ある「制度」につきあたる。実は今から十数年前、引越社は、社員だけではなくエアコンやピアノなどの取り付けに携わる協力会社の社員にも、「身元保証人」付きの身分証明書を所持、帽子などに付けるという独自の試みを始めている。例えば、身元保証人が身内ならば、両親や兄弟に印鑑証明など必要書類を提出させるわけだ。引越社としては非常に気に入っている制度らしく、会社のWebサイトでも、『業界初!』『全作業員「身元保証人」付 すべての作業員が名前を開示。安心して引越しをお任せください』と誇らしげに記されている。

 過去の業界紙では消費者が信頼するなんて好意的に取り上げられることもあったが、個人的にはかなりしっくりこない。

 確かに、ひとり暮らしの女性などには安心かもしれないが、そもそも作業員の身元保証は、親族や知人ではなく引越社の役割ではないのか。それを飛び越えて、自分で保証人をたてろというのは会社から「お前たちの身元は信用できない」と言われているようなものだ。個々の責任感が増すというが、借金の連帯保証人同様に事故や損害が発生した時の「責任」も肩代わりさせようとしているのではという疑念も浮かぶ。こういう労使の考え方が、弁償金制度にも結びついているというのは、想像にも難くない。

 巨人になった赤井英和さんでおなじみのCMでは、「どうしてそんなに大きくなっちゃったんですか?」という問いかけに赤井さんが「なんでだろう」と首をかしげていると、引越社の女性がこんな言葉をかける。

 「真面目にやってきたからよ」

 どうも別の理由があったような気がしてならない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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