川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
家に子供がいるのは、せいぜい20〜30年くらい。進学や就職や結婚でいつかは出て行ってしまう。残された夫婦は50歳代中盤で、男はあと10年くらい会社で働き、女は夫の世話とパートなどの仕事を掛け持ちしながらがんばる。60歳代も半ばを迎えて男は定年退職して家にいる時間が増える。本格的な夫婦二人の生活の始まりだ。5年や10年でそれは終わりではなく、20年以上は続く。
そんな夫婦が暮らすのは、広い一戸建やマンションだ。使わない部屋があるし、広すぎて掃除が面倒だし、庭があれば手入れもしなければならない。それに、広すぎるのは何だか寂しい。築20〜30年も経てばガタもくるし、地震も不安だし、スキ間があって冬は寒い。買った当時と違って寂れてきたり賑(にぎ)やか過ぎたりして、周辺の環境も気に入らなくなってきた。若いころには気にもしなかった坂道や段差に、つまづくことがあった。昔は通勤があったから駅近が良かったが、今や電車は週に1〜2度しか使わない。評判の良い学校の校区を選んで買ったが、子供もいないので今やどうでもよいことだ。もはや職場仲間もおらず、同世代の知り合いも引っ越して少なくなり、誰とも会話しない日がある。
そんな前向きになれない環境でも、健康でいたい、長生きしたいと思う。だからウォーキングをしたり、スポーツクラブに行ったり、サプリや健康食品を口にしたりするが何か虚しい。健康や長生きが目的になってしまっており、本当にしたいことが見つからない、何のために健康維持に努めているかが分からないからだ。とは言え、病気や介護状態にならないか不安を覚える。病院や介護事業所は近くないし、もしそうなったら誰かが見つけてくれるか、手助けしてくれるか。衰えは避けようがないから、いくら健康維持に励んだって、このような不安が解消されることは決してない。
こういった高齢者の心理を考えると、問題は「家」なのではないかと思う。家に対する不満や不安が多くあり、高齢期の暮らしをネガティブなものにしてしまっている。また、家が事故を誘発したり、孤独を助長したりして、衰えを早めているようでもある。面倒から解放されたい、人と交流して元気に暮らしたい、ケガや病気や介護の不安を解消したいと思うなら、高齢期に合う家に引っ越せばどうだろう。
必要なだけの広さと部屋数、いざというときに手助けやサービスが受けられる、人との交流がある。そういう家に住み替えればよい。ライフスタイルに合わない家に住み続けた結果、早く衰え、要介護状態になって子らの世話になり、しばらくして施設に入所、あげくに病院で終末治療を受けて死を迎えるといった高齢期は本人も嫌だろうし、家族も苦労するし、社会的にもお金がかかる。
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