テロリズム・インデックスを読む限り、今後もテロは増加していくものと考えるのが自然だ。というよりも報告書はむしろ、今回のフランス同時テロへの報復によって、テロ行為がさらに増える可能性を示唆しているのである。
となると、今回のフランス同時テロに、フランスをはじめとする欧米諸国はどう対処すべきなのか。報復を中止すべきか? 私の周りにも、平和主義精神で「暴力は暴力を生むだけだ」と主張する人もいる。しかも今回取り上げたテロリズム・インデックスには、それを裏付けるような数字が示されている。
ただ言うのは簡単だが、現実に、それでは問題は解決できない。欧米などがイスラム国への攻撃を止めれば、イラクやシリアではさらに領土が奪われ、イスラム国というテロ国家が本当に生まれてしまいかねない。
そうなれば、恐怖統治を行うイスラム国という「国家」の独自戒律によって、別の暴力が生まれることになる。例えば、ヒゲを剃ったら死刑などというとんでもない理由で死者が続出しかねない(実際に過去に取材したイスラム原理主義勢力タリバンに統治されていたパキスタンのある国境地域では、そういう「戒律」のためにヒゲの薄い人は証明書を常に携帯する必要があった)。
領土を拡大し始めた時のように、イスラム国は土地を奪いながら自分たちの考えと相いれない人々を次々と殺戮していくだろう。テロリストの巣窟(そうくつ)になることもありえる。そうすればまたそこから逃れる難民が増え、今回のフランス同時テロのように、テロリストを輸出する結果になることだって考えられる。
もはや世界は降りられない列車に乗っている。イスラム国を食い止めるために掃討作戦をやめるわけにはいかないからだ。イスラム国を徹底して掃討すれば、地域には安定がもたらされる。その希望に賭けるしか、世界に残された道はないのではないか。
報復は暴力しか生まない――。確かに、それは正しいだろう。だがイスラム国との戦いでは、現実を直視しない平和主義が別の暴力を生むということも理解しておいたほうがよさそうだ。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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