変わりゆく品川に息づく、カフェの温もり新連載・人と人、人と街をつなぐカフェ(2/5 ページ)

» 2015年12月04日 08時30分 公開
[川口葉子ITmedia]

懐かしい暮らしの気配が随所に

店内には昭和の面影残る畳の間が 店内には昭和の面影残る畳の間が

 元はパチンコ店だった建物の玄関に、クロモンカフェの看板と「もちもち玄米ごはん炊けてます」の木札。水槽で飼われている亀を横目に靴を脱ぎ、やや急な階段を上がると、昭和時代の面影を濃厚にとどめた畳の間が2部屋続き、細い三角形のキッチンスペースがある。

 パチンコ店を営む男性が40年間寝起きしていたというこの2階には、何と冷房もなければガスも引かれていない。それでも薄葉さんにとっては幼いころから憧れていた場所なのだ。

 路地の角に位置するこの建物は、少しだけ道路に突き出している。

 「子どものころから、あの2階に上がって窓を開ければ、商店街がずっと先まで一直線に伸びているのが見えるだろうと想像していた。だからパチンコ屋さんが廃業したとき、とにかく窓から外を見渡したくて物件を借りました」

 カフェは地域の人々やものづくりをする人々との関係の中で成立していると薄葉さんは言う。ふすまはアーティストによって美しい色調にペイントされている。古いちゃぶ台や雑多な食器の類は、もらいものの寄せ集めだ。

 カセットコンロの火で調理する「となりの八百屋さん定食」は、2軒隣にある八百屋さんから野菜を、同じ商店街の米店から玄米を購入する。「魚屋さん定食」も同様だ。一人暮らし用の小さな冷蔵庫しかないので、八百屋さんや魚屋さんが冷蔵庫代わりだという。

 懐しい匂いのする素朴な空間で手作りの料理を味わうために、老若男女が狭い階段をゆっくり上がってくる。冷房なしでは夏は開店休業状態だろうと思いきや、冷房の効いたオフィスで身体の芯まで冷えてしまった女性たちの避難所になっているそうだ。

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