日本がリードする「ロボット農業」、核となる衛星測位にも日本の技術があった宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)

» 2015年12月04日 11時42分 公開
前のページへ 1|2       

ロボットトラクターは日本がリード

 しかしながら、こうした高精度モジュールでも、完全なるロボットトラクター実現のためには課題が残ります。

 GPS信号などが途切れたときの推測航法をどう行うのか、荒れた農地を行くトラクターが傾いたりしたときの補正をどう行うのか、さらに実際農地を耕すのはトラクターの後ろについた作業機ですが、作業機とGPSアンテナが搭載されているトラクターとの間の距離補正を行うことも精密農業を実現するためには不可欠なのです。

GNSS RTK モジュール&IMU GNSS RTK モジュール&IMU

 こうした課題を解決するためにGNSSモジュールとIMU(Inertial Measurement Unit 慣性演算装置)の高度カップリングシステムが鍵になります。IMUを衛星および地上局に続く、第三の衛星として活用することで、IMUが検知するトラクター自身の加速度や傾斜情報も踏まえて、GNSSモジュールが自己位置特定を正確に行い、その情報を基に走行制御をより高精度に行います。本技術は今年の「CEATEC Award 2015」のソーシャルイノベーション部門でグランプリを受賞するなど注目を集めています。

 日本のトラクター販売台数は年間約4万台ですが、世界全体では250万台に上り、年率15〜20%で伸びている成長市場です。実は日本のトラクターメーカー全体の世界シェアは30〜40%と非常に大きく、日本が中心となってロボット農業の実現をリードできる分野と考えています。

建設機械、警備ロボット、ドローンなど広がる可能性

 こうしたGNSSソリューションは、ロボットトラクター以外にも、農薬散布用のドローンや無人ヘリコプターへの展開も期待されています。さらには建設機械や搬送システム機械など、重く危険な資材を運ぶ機械の自動化も有力と考えています。将来的には警備ロボットなどへの活用も考えられます。

 日本独自の測位衛星システムである準天頂衛星の整備が進めば、地上に固定基地局を置かない単独測位で高精度を実現するPPP-RTK(精密単独測位型 RTK)システムの開発も進むと思います。

 こうしたニーズは日本だけではありません。実際、中国と欧州を結ぶ新たな貿易・輸送ルートである「シルクロード経済ベルト構想」の実現に向けて、現在、中国とロシアが共同で中央アジアのインフラ整備を進めていますが、プロジェクトに参加する企業からは建設機械の自動化やロボット化に関していろいろと問い合わせを受けています。グローバルにニーズがあると考えています。


 日系の農業機械メーカーやモジュールベンダーがリードをする衛星技術を活用した農業機械のロボット化、リモートセンシング技術によるIT農業と併せて、今後の進展に注目したい。

著者プロフィール

石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2015」企画委員会代表。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.