自治体のキャッチコピーは、なぜ“メルヘン化”してしまうのかこだわりバカ(4/5 ページ)

» 2015年12月22日 08時00分 公開
[川上徹也ITmedia]

自治体コピーが空気化しメルヘン化する理由

川上氏の最新刊『あなたの弱みを売りなさい』(ディスカヴァー21)

 自治体コピーが空気化しメルヘン化する理由は、前回のコラムで書いた「大学コピーが空気化する3カ条」と重なる部分は多い。空気化からさらにメルヘン化までするのは、ちょっとでも独自色を出そうとしたのが仇(あだ)になっているのだろう。また公募などで寄せられたものを、自治体の偉いオジサンたちが「これでいいんじゃない」とか言って選んでしまうということも要因だと推測される。

 しかし、実はこれら以外にもっと根本的な問題がある。キャッチコピーという言葉に惑わされて、その役割をきちんと把握しないままにキャッチコピーを考えて制定してしまうことだ。もちろんこれは自治体コピーに限ったことはない。ちょっと整理しておこう。

 キャッチコピーと呼ばれるいるものには、大きく分けると3つの階層がある。私はこれを川の流れになぞらえて「川上コピー」「川中コピー」「川下コピー」という風に分類している。

 一般的にキャッチコピーと認識されることが多いのが、川下コピーだ。海にあたる生活者と直接向かい合うコピー。多くの商品広告のキャッチコピーがこれに当てはまる。CMはもとより、チラシや店頭POP、商品名などもこれに含まれる。実際に売りに直接つながるキャッチコピーだ。

 川中コピーは、少し階層が上がり、長期的なキャンペーンコピーや、ブランドを表現するコピーである。一般的に、その企業やブランドのイメージを確立するときに必要で、ダムのようにいいイメージを貯める役割を果たすことが理想的だ。

 川上コピーは、さらに階層が上がる。その企業の理念をキャッチコピー化したスローガン(コーポーレートメッセージ、タグラインとも)だ。水源・源流にあたる部分なので、企業の広報広告を考える上では、ここが明確になっていないと、川中や川下でどんなにがんばっても一時的な効果しか得られない。川上コピーをきちんと機能させることがまず何よりも重要なのだ。

 自治体のキャッチコピーを考えるとき、この「川上」「川中」「川下」という概念が抜けていることが多い。

 自治体の職員や市民にとっての目標や旗印となるような「川上コピー」を考えるのか。他県から観光に来てもらうためのプロモーション用の「川下コピー」なのか。その自治体のブランド力を高め、特産品などのバリューを上げたり、住みたいと思わせたりするための「川中ダムコピー」なのか。

 つまり誰に向かってどういう目的のためのキャッチコピーかを書くかによって、書くべきキャッチコピーの内容が全く変わってくるのだ。

 しかし大抵の自治体のキャッチコピーは、誰に向けて何を言うかを考えないまま企画し、考えないまま書かれ、考えないままそれを採用してしまう。それによりコピーは空気化し、さらにメルヘン化までしてしまうのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.