青函トンネル「貨物新幹線」構想が導く鉄道の未来杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2016年01月15日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

貨物用新幹線(積み替え式)のメリットは大きい

 北海道新聞の記事によると、新たな貨物用新幹線案は、従来のトレイン・オン・トレインではないようだ。共用区間の両側にコンテナ積み替えターミナルを設置し、在来線貨物列車から新幹線貨物列車へ、クレーンを使ってコンテナを積み替える。フォークリフトが稼働するコンテナ貨物駅を想像すると、手間のかかる面倒な作業という印象になってしまう。

 しかし、コンテナ埠頭で稼働するトランスファークレーン(参考動画)を応用すれば、1コンテナあたりの積み替えは2分もいらない。コンテナをつかむスプレッダという装置を改良すれば、JR型12フィートコンテナ5個を同時に処理できるかもしれない。新幹線貨物列車は1両につきコンテナ5個を搭載し、20両編成として在来線貨物列車の最長編成に対応させるという。

 新幹線貨物列車はE5系「はやぶさ」の車両を基本として開発する。客室部分をコンテナ置き場とし、側壁を設置してすれ違い風速に対応する。トレイン・オン・トレインというよりも、トンネル内隔壁方式の「隔壁を列車に乗せてしまう案」とも言える。

 貨物用新幹線(積み替え式)は、トレイン・オン・トレインより積み替えに時間がかかるかもしれない。しかし、そこに目をつぶっても良いと思えるほどのメリットがいくつもある。1つは軽いこと。トレイン・オン・トレインは新幹線型貨車に在来線型貨車も積み込む。しかし本来、運びたい荷物はコンテナだけだ。トレイン・オン・トレインは余計な「車輪付き荷台」を載せて走るから、列車自体が重くなってエネルギーの無駄だ。重心が高くなり不安定になりやすい。

 動力分散方式の加速、減速性能も魅力だ。トレイン・オン・トレインは機関車による運行で、貨物用新幹線(積み替え式)は電車方式となる。機関車方式は貨車を単純な構造として安価にできるし、貨車そのものが軽いから空荷で戻すときに余分なエネルギーを使わない。しかし、加速に時間がかかる。減速時も同様で、機関車と貨車が同時にブレーキをかけたとしても、貨車側の積み荷の重さによって慣性力が働く。

 電車方式は複数のモーターを搭載するから加速もいいし、減速時はそれぞれのモーターが強力なブレーキのように働く。回生ブレーキとなって発電もしてくれる。満載時もE5系と同等の性能を維持できるように作れば、青函トンネルは旅客列車も貨物列車も平行ダイヤで運行できる(関連記事)。列車の運行本数そのものを増やせるわけだ。

 そして、貨物輸送の将来を考えたときに貨物用新幹線(積み替え式)こそふさわしい。貨物用新幹線(積み替え式)は「車輪付き荷台」が不要だから、コンテナの高さに余裕ができる。国内トラック輸送で普及している31フィートウイングコンテナや、国際航路で使われるISOコンテナにも対応できる。トレイン・オン・トレインはカッコいいし、良いアイデアだけど、残念ながらJR型12フィートコンテナにとらわれすぎた。

JR12フィートコンテナを使った国際輸送では、3個をラックコンテナにまとめ、40フィートISOコンテナとして使っている。このアイデアは載せ替えの効率化に使えそうだ(出典:国土交通省 コンテナ輸送効率化 鉄道輸送WG・平成16年度報告 資料 国際海上コンテナ内陸鉄道輸送の拡大に向けた調査・検討) JR12フィートコンテナを使った国際輸送では、3個をラックコンテナにまとめ、40フィートISOコンテナとして使っている。このアイデアは載せ替えの効率化に使えそうだ(出典:国土交通省 コンテナ輸送効率化 鉄道輸送WG・平成16年度報告 資料 国際海上コンテナ内陸鉄道輸送の拡大に向けた調査・検討

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