「お客様第一」がスローガンの会社は、なぜ「お客様第一」でないのかこだわりバカ(5/5 ページ)

» 2016年01月25日 08時00分 公開
[川上徹也ITmedia]
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経営理念から企業スローガンに

 ここまで、経営理念と企業スローガンをあまり区別せずに「川上コピー」としてひとまとめにして論じてきた。会社によっては「社是」「ミッション」「ビジョン」「コーポレートメッセージ」などいろいろな言葉で書き分けたりしている。だだ、あまりそこにこだわっても意味がないと考える。ややこしくなってしまうだけだ。外部に向けては「経営理念」と「企業スローガン」の2つを掲げれば十分だ(ひとつにまとめられるのならばそれでもいい)。企業活動の考え方の根幹部分を「経営理念」にし、それをより伝わりやすくキャッチコピー化したものを「企業スローガン」として掲げるのが一般的だ。

 経営理念と企業スローガンをうまく連動させているのがテレビCMでもよく見る小林製薬だ。ベタすぎる商品名や直接的なトーンのCMが嫌いという人も多いかもしれないが、非常に参考になる例である。

 まず小林製薬が掲げる経営理念は以下の通り。

我々は、絶えざる創造と革新によって

新しいものを求め続け、

人と社会に素晴らしい「快」を提供する。

 最初の2行はやや空気コピーではあるが、最後の1行の「快を提供する」は非常に分かりやすい理念になっている。

 それをキャチコピーした企業スローガン(小林製薬のサイトでは「ブランドスローガン」と表記)が、以下の通りだ。

「あったらいいな。」をカタチにする。

 こちらも非常に分かりやすいスローガンだ。(1)短く、やさしく、覚えやすい言葉で(2)その会社ならでは哲学を感じる(3)羅針盤になる1行にする――つまり、3条件をすべて満たしているのだ。社内には目指すべき方向を示し、社外には共感を呼ぶ非常に分かりやすい「川上コピー」になっているのが分かるだろう。

 実際の小林製薬のCMでは、冒頭の画面にこのスローガンが出る。それ自体は、読めないくらいの短い秒数だが、「あっ、小林製薬」という音声も同時に流れる。これは「あったらいいな」の「あっ」の部分を取ったものだ(もちろんCMに注目を集めるアテンションの役割も果たしている)。上流のスローガンがちゃんと川下のCMにつながっている。

 さらに小林製薬の商品の多くは、経営理念や企業スローガンを体現したものであることも特徴だ。「熱さまシート」「ポット洗浄中」「ブルーレットおくだけ」「トイレその後に」「サカムケア」など、いずれもニッチではあるけれど「あったらいいなをカタチにした商品」になっている。またベタではあるが、商品名がそのままキャッチコピーになっているという点でもよくできている。

 川上から川下までが、言葉がこれほどスムーズに流れていると、(自分の仕事ではないが)とても気持ちいい。

プロフィール:川上徹也(コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表):

 大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。

 「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という言葉を産み出した第一人者としても知られている。現在は広告にとどまらず、「言葉」を変えることで、企業団体・社会・制度などを輝かせる仕事に取り組んでいる。

 著書は、シリーズ累計11万部突破の『物を売るバカ』『1行バカ売れ』(角川新書)など多数。 最新刊『あなたの弱みを売りなさい』(ディスカヴァー21)好評発売中。


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