新型プリウスPHV 伸びたEV走行距離と後退した思想池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2016年04月04日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

真面目にエコを追求

 さて、話を戻そう。少し乱暴に言うと、毎日の通勤距離が20キロ以内なら、ほぼガソリンがいらないというのがPHVの魅力というわけだ。では、この距離はどうやって決められたのか。トヨタでは、自動車ユーザーの統計調査から毎日の走行距離を導き出した。その上でユーザーの80%をカバーする距離を満たすことを目標にバッテリーの容量を決定した。

家庭で充電したら、継ぎ足し充電はしないという設計思想を廃止して、充電スタンドの急速充電にも対応した。20分で約80%の充電が可能だという。今後の充電スタンドでの空き充電器争いの競争率は否応なく激化するだろう 家庭で充電したら、継ぎ足し充電はしないという設計思想を廃止して、充電スタンドの急速充電にも対応した。20分で約80%の充電が可能だという。今後の充電スタンドでの空き充電器争いの競争率は否応なく激化するだろう

 レンジエクステンダー機能があるPHVの場合、電気自動車と違って、バッテリー切れはクリティカルな問題にならない。電池を使い果たしても普通のハイブリッドになるだけのことだからだ。逆に電池切れに大したリスクがあるわけでもないのにバッテリー容量を増やせば、常に重量物を背負って走行することになり、燃費が悪化する。何のためのプラグインだか分からなくなるのだ。そこを解決するために実態調査を行ってバッテリーの最適サイズを決めたのだ。

 実は、先代のプリウスPHVにおいてこの理詰めのエンジニアリングにはとても敬服したのだ。2010年代の自動車産業において、これほどユーザーの利便性を損ねずに真面目にエコを追求したプロダクトはそう多くない。「充電するのに時間がかかるのは仕方ないでしょう」という言いわけを止められない電気自動車とはそこが根本的に違う。そこにエンジニアの良心を見た思いがしたのだ。

 しかし、残念ながらその真面目で理詰めのエンジニアリングは理解されなかった。「えー!? 26.4キロしか走らないのでは意味ない」というユーザーの声に負けたのである。ここまで読み進めた方ならお分かりの通り、その距離にこそ最適化を突き詰めた意味があるし、電力切れに関してもこれほど手厚いバックアッププラン(ハイブリッド)が用意されたシステムはない。しかし、その「大して意味がない」という先入観を打ち破ることができなかった。

 だから新型プリウスPHVでバッテリー容量を増加してくることは容易に想像がついていた。果たして、トヨタのリリースに「60キロ以上と大幅に延長」という文字を見つけた。先代モデルでユーザーの利便性を真面目に考えたエンジニアの悔しさは想像に難くない。

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