報道自由度ランキングが「72位」だった、これだけの理由スピン経済の歩き方(4/4 ページ)

» 2016年05月10日 08時07分 公開
[窪田順生ITmedia]
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ジャーナリストの「病」が国を「危険」に

 では、安倍政権が消えてなくなれば、本当に日本の「報道の自由」が飛躍的に向上するのか。「国境なき記者団」の方たちはそう信じていらっしゃるのかもしれないが、個人的には難しいと思っている。当の報道人たちに「変わらなくては」という意識が乏しいからだ。

 30年近く前、スウェーデンのプレスオンブズマンが来日をしたことがある。トシュテン・カーシュという方で、日本のメディアにも耳の痛い指摘をする審査機関をつくれと迫った。

 「日本に限らず、米国でもスウェーデンでも、ジャーナリストには共通の病がある。それは自分たちへの批判に対してアレルギーがある、ということだ。(中略)もし、『報道の自由』を行使する時、思い上がりがあれば、読者の信頼を失う。結果として、この『報道の自由』を法律で規制しようという誘惑を政治家にもたせる。そんな危険を冒すより、報道機関が、自主的な審査機関を作った方が危険が少ない」(朝日新聞:1987年3月7日)

 批判に対して耐性がないメディアは、「ひとりよがり」になりがちだ。独善的な者が疎(うと)まれるのはどこの社会でも変わらない。権力者にとって「信頼されない報道機関」ほどありがたい存在はない。法律でガチガチに縛る大義名分ができるからだ。

 ジャーナリストの「病」が国を「危険」に追いやる――。個人的には、今の日本を的確にいいあわらした予言だと思っている。

 それを象徴するのが、5月4日の「天声人語」だ。香港よりも低い「72位」という評価について、「記者として自責の念を抑えがたい」と殊勝なもの言いをしていたかと思いきや終盤、自分のことを棚にあげていきなり「権力者」への責任転嫁を始めるのだ。

 「それにしても、昨今の自民党議員らによる居丈高な物言いは、やはり常軌を逸している。担当相が放送局に電波停止をちらつかせ、議員が報道機関を懲らしめる策を勉強会で披露する。あの種のふるまいがなければ、日本がここまで評判を落とすことはなかっただろう」(朝日新聞:2016年5月4日)

 どうやらこの新聞には、まだまだ重い「病」を患っている方がたくさんいそうだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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