“不毛時代”続いたカルビー「フルグラ」がなぜ急激に売れ出したのか?製造ライン増強で年間500億円目指す(2/3 ページ)

» 2016年05月24日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

“押し付けマーケティング”を止めた

清原工場で新たに稼働開始した製造ライン(左の建物) 清原工場で新たに稼働開始した製造ライン(左の建物)

 フルグラ急成長の号砲となったのが、2009年、カルビーにやって来たばかりの松本会長の“鶴の一声”だった。「こんなうまいものが売れないわけがない。もっとフルグラの販売に力を入れなさい」。

 トップダウンによって営業方針が一変。同社主力のスナック商品と並ぶ位置付けとしてフルグラの販売強化を図った。具体的には、当時スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店頭にほとんど並んでいなかったので配荷率を高めるとともに、店頭での商品回転率を上げるために、試食やサンプリングなどの広報活動に力を入れた。

 加えて取り組んだのが、新たな市場の創出である。当時、米国のシリアル市場は約1兆5000億円。それに対して日本は約250億円とわずかだった。「シリアルそのものが日本人に受け入れられていない状態だった。そこでまずはフルグラをシリアルと呼ばないようにした」と松本会長は述べる。

藤原かおり事業部長 藤原かおり事業部長

 これまで日本のシリアル食品といえばコーンフレークがメインで、それに牛乳をかけて主食として食べることが浸透していた。実はその「主食」という絞り込みが市場の広がりを妨げていたのではとカルビーは見ている。「今まで白米やパンなど消費者が朝ごはんとして食べていたものを押し退けて、シリアルを提供しようとしていた」と、カルビー マーケティング本部 フルグラ事業部の藤原かおり事業部長は説明する。こうした“押し付けマーケティング”は止めて、グラノーラという新しいカテゴリーを作っていこうと考えたのだ。

 そこで着目したのが朝食市場全体である。つまり、従来の主食に取って代わるのではなく、朝食メニューの1つになろうとしたのだ。そうした観点で調査したところ、多くの消費者は朝食にヨーグルトを食べていることが分かった。

 「普段食べているヨーグルトの“お友だち”としてフルグラを一緒に食べてもらうように提案をした。また、ヨーグルトに食感が加わるので、ここにも新しさがあると考えた」(藤原氏)

 また、日本の朝食市場は約17兆円と言われており、シリアル市場とは比較にならないほど巨大な規模だった。そのポテンシャルの高さを小売・流通に啓発して、商品棚を従来のシリアルからグラノーラに変えていく働きかけをしたほか、カルビー自身も朝食本やレシピ本を出版するなどして「朝食のことはカルビーに聞け」というようなポジショニングを確立しようとした。

 そうした狙いは成功。時を同じくして、2011年ごろからパンケーキをはじめとする新しい朝食のトレンドが海外から持ち込まれたこともあり、一気にフルグラも脚光を浴びるようになった。結果、2012年度は前年から170%成長となる63億円を売り上げた。これを境に現在までの右肩上がりの販売実績は上述した通りである。

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