自制なきオンデマンドとテスラの事故池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年07月11日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

自動運転の安売り

 それは自動運転でも同じだ。そもそもテスラのオートパイロットと呼ばれるシステムは、社会通念上思われている自動運転ではない。国交省が各種検討会などで用いている自動化の分類は以下のようになっている。

レベル0 自動化なし

常時、ドライバーが、運転の制御(操舵、制動、加速)を行う。

レベル1 特定機能の自動化

操舵、制動または加速の支援を行うが操舵・制動・加速の全てを支援しない。

レベル2 複合機能の自動化

ドライバーは安全運行の責任を持つが、操舵・制動・加速全ての運転支援を行う。

レベル3 半自動運転

機能限界になった場合のみ、運転者が自ら運転操作を行う。

レベル4 完全自動運転

運転操作、周辺監視を全てシステムに委ねるシステム。

 このレベル分類によれば、テスラのオートパイロットはレベル2に過ぎず、現実的には運転支援であって自動運転ではない。曲がりなりにも自動運転と言えるのはレベル3からだ。

 今回の件を懸念した国交省からも、「5月に米国において事故が発生したテスラの『オートパイロット』機能を含め、現在実用化されている『自動運転』機能は、運転者が責任を持って安全運転を行うことを前提とした『運転支援技術』であり、運転者に代わって車が責任を持って安全運転を行う、完全な自動運転ではありません」という報道発表が行われている。

 テスラ自身、オートパイロットは本当の意味での自動運転でないことは百も承知だ。その上で、「顧客が望むニュースを発信したい」メディアが誤解してはやし立てることを看過してきた。いや、自らもその誤解を助長するような情報発信をしてきたと言っても良い。7月9日現在のテスラのWebサイトをにはこう書かれている。

自動運転

自動運転機能はフォワードビュー カメラ、レーダー、そして360度超音波センサーをリアルタイムの交通情報と組み合わせることで、道路状況を選ばずにModel Sの自動運転を可能にします。車線変更は方向指示器の操作1つで行えるようになり、目的地に到着すると、Model Sは駐車スペースを見つけて自動的に駐車するようになります。安全機能は標準で装備され、一時停止標識、信号、通行人を常時監視すると共に、意図しない車線変更を警告します。

これらの自動運転機能は、ソフトウェアアップデートを通して段階的に有効になります。

 ここに書かれていることを普通に読んだら、レベル4が達成できているとしか思えない。今となっては最後に「ソフトウェアアップデートを通して段階的に有効になります」と書いて逃げを打っていることは分かる。

 つまり「道路状況を選ばずにModel Sの自動運転を可能にします」は「これから段階的に可能にしていきます」という話であって、今既にそうだとは言っていないということだ。だが、ユーザーは「テスラは他社と次元の違う高度な技術によって一足早くレベル4の自動運転を可能にした」と理解するのが普通だろう。公平に考える限り、そう受け取るユーザーが悪いとは到底思えない。

 あえて誤解を誘い、卓越した技術があるかのように装う。それによってテスラの企業価値には多大なメリットがあったはずだ。

テスラのWebサイトより テスラのWebサイトより

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.