私がなぜこのように「らしさ」ということを相手に問いかけるかというと、実は「らしさ」が見つからないと企業も人も前に進めないからなのです。
前に進む――。ただ漫然と時間が流れるのではなく、成長していく。目指すべき方向に進んでいく。よりよく向上していく。1人の人生においても、その人の営みであるビジネスや共同体においても、これは根本の大切な問題です。
「らしさ」=「独自性」を発見していくことは、そこに直結する重要なことがらなのです。ブランディング・ディレクターという私の仕事は、ここを発見し育てるお手伝いをしていく仕事です。この「らしさの発見」「独自性の発見」こそ、ブランディングの源泉だと私は考えています。
そもそも「ブランド」と聞くと、いわゆるブランド品と称される高級品や、地方の特色ある米や肉といった特産品を思い起こす人も多いと思います。
ブランドについての教科書に大抵書かれているのは、この言葉の語源は、飼っている家畜に自分の目印となる焼印をつけることを意味する北欧の古い言語ノルド語branderで、日本語では「商標」などと訳され、それはつまり識別するための印であるというようなことです。
これまでのブランドという概念は、他者との差別化、識別性など、他者との比較に力点が置かれて語られてきました。つまりそれは、自分の外にあるものさし――マーケットという外なる座標軸の中でどうポジションを得るかとか、競争の中でいかに勝ち残るかという視点――で考えられてきたからです。
人間にとってもっとも大切なことは、自分自身の人生を生き切ることです。流行っている誰かのように似せることではなく、かけがえのない自分自身を磨きあげていくことです。このことは、人が生み出すモノやコト、人が営む組織にも通じていきます。企業にとっても、成功している他社のマネをすることではなく、その企業のみが体現できる独自性を磨きあげていくことがなにより肝要なのです。
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