ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2016年09月02日 06時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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新たな足切り輸送密度は500人/日となる?

 今回、JR北海道は足切りの輸送密度を500人/日未満とした。いったん国が「4000人/日未満は公共交通の義務ではない」と決めた数字よりかなり低い。自力で維持する路線も輸送密度2000人/日で、国鉄の基準の半分だ。JR北海道の公共事業体としての責任を問う声もあるけれども、2000人/日、500人/日という数字は、国鉄時代の存廃論議よりも大きな譲歩と言える。一昔前なら切り捨てられるレベルの路線を、公共交通機関の自覚を持って、何とか維持してくれたわけだ。そして、これはJR北海道だけではない。他のJR旅客会社も同じだ。

 9月1日、JR西日本は、存廃問題で揺れている三江線について、正式に廃止を表明した。三江線の輸送密度は50人。JR北海道の廃止基準の1割にすぎない。そして、輸送密度500人/日という数字は、本州、四国、九州にはゴロゴロしている。三江線以外は表面化していないけれど、隠れメタボのような存在だ。

 特に上場企業であるJR東日本、JR東海、JR西日本では、株主からいつ廃止を提案されてもおかしくない。現在は鉄道事業に好意的な株主が多いだろう。しかし、出資者本来の役割として、利益を阻害する要因は質すべきだ。公共交通とはいえ、赤字路線を民間企業が担うべきか否か。

 その基準として、輸送密度2000人/日以上の路線を維持すれば公共交通事業とみなす、という判断はできる。500人/日未満は廃止せよ、2000人/日未満は自治体の支援を求めよ、JR北海道だってそうじゃないか。それでも国鉄時代よりは誠意があると考えてほしい。そんな風に企業と株主が意見を一致させた場合、北海道以外にも消えていく路線はある。

JR東日本で輸送密度500人/日未満の線区(2014年度)(参考:JR東日本「路線別ご利用状況」) JR東日本で輸送密度500人/日未満の線区(2014年度)(参考:JR東日本「路線別ご利用状況」
JR東海で輸送密度500人/日未満の路線(2013年度)(参考:国土交通省 鉄道統計年報平成25年度) JR東海で輸送密度500人/日未満の路線(2013年度)(参考:国土交通省 鉄道統計年報平成25年度
JR西日本で輸送密度500人/日未満の線区(2014年度)(参考:JR西日本 データで見るJR西日本2015) JR西日本で輸送密度500人/日未満の線区(2014年度)(参考:JR西日本 データで見るJR西日本2015
JR四国で輸送密度500人/日未満の路線(2015年度)(参考:JR四国 企業情報) JR四国で輸送密度500人/日未満の路線(2015年度)(参考:JR四国 企業情報

※ JR九州で輸送密度500人/日未満の路線(2013年度)はなし。(参考:国土交通省 鉄道統計年報平成25年度)

 JRグループだけではなく、大手私鉄、バスや他の交通機関にも「500人/日未満」という数字は影響を与える。JR北海道が輸送密度の数字を掲げたことで、これが足切りの新基準と解釈されるだろう。日本の交通問題全体に波紋を広げる数字と言えそうだ。

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