怖がりでも大丈夫、後味の良いホラー小説のススメ内田恭子の「いつもそばに本があった」(3/3 ページ)

» 2016年09月22日 08時00分 公開
[内田恭子ITmedia]
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男の子が泣きわめく理由は……

 ある日のこと、三島屋に骸骨(がいこつ)のように痩せこけ、顔色も病人のように悪い男が訪れてくる。店先で気絶してしまうくらいに弱りきっている。ようやく目が覚めると、これから自分が固く胸に隠し通している話をするので、聞き終わったら必ず人を呼んでほしいとおちかに頼む。一体どんな話が出てくるのか、ドキドキな出だしである。

「三島屋変調百物語」シリーズの第3弾「泣き童子」 「三島屋変調百物語」シリーズの第3弾「泣き童子」

 「泣き童子」のタイトルとなったこのストーリー。三島屋変調百物語シリーズの中では珍しく恐ろしく、そして悲しい話なのだ。

 その男が語り出したのは、末吉という男の子の話だった。実の親に捨てられ、育ての親に引き取られた末吉は、言葉はしゃべらないものの3歳を過ぎたころから不思議な力を発揮するようになる。人が隠している悪事を見抜くことができ、そんな人がそばにくると火がついたように大泣きし始めるのだ。

 ある日を境にそうした状態が続き、理由が分からず末吉を持て余してしまった一家は、愛想を尽かして彼を知人のところへ預けてしまう。その間にその一家の元で働いていた職人が押し込み強盗の手引きをし、一家は全員寝込みを襲われ殺されてしまう。末吉だけがその職人の悪事を悟っていたのだった。

 その後も末吉は預けられた先で、再び大泣きを始めることとなる。そこの家の娘であるおもんが、裏切られた相手を殺めてしまったからだ。おもんを見るたびに執拗に泣き続ける末吉。我慢できなくなってしまったおもんはついに末吉を手にかけてしまう。

 ……が、話はここでは終わらない。末吉の影は死んだ後も残り続け、悪事をはたらいた者を苦しめ続ける。そして、最後は思わず本のページをめくる手を止めてしまうような結末でストーリーは終わりを迎える。

 怖がりの私はもちろんゾクっとするけれど、それよりも罪の重さに耐えきれない人の弱さだったり、それを背負い込んでしまう親心だったりがとても切ない。読み終わった後は、怖さよりも、人間の身勝手さやもろさを考えさせられてしまうのである。

 ホラーが大好きな人も、私みたいな怖がりの人も、是非ともこの1冊で、スッとひんやりする時間と、いろいろと考えさせられる時間の両方を楽しんでいただければ!

著者プロフィール

内田恭子(うちだ きょうこ)

キャスター。1976年6月9日、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。神奈川県横浜市出身。1999年、フジテレビ入社。同局のアナウンサーとしてさまざまな番組を担当後、2006年に退社・結婚。現在はテレビ・ラジオ・雑誌連載・執筆活動などをベースに、読み聞かせグループVOiCEを立ち上げ都内の小児病棟などで読み聞かせを行い、また「女性のHappyは世界を変える」をテーマにLena’sを主宰し日々活動を行っている。公式ブログ「Dear Diary,」

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