口で言ってしまうと簡単に聞こえるが、これを交渉の現場で実践している人は少ない。
ビジネスメールで、「よろしくお願いします」がもはや定例文になっていたり、会議や打ち合わせ終わりに、「よろしくお願いします」が決まり文句になっているように、我々の頭の中には、「頭を下げてお願いをする=仕事」という刷り込みがある。
事実、ドラマやマンガなんかでは、大きな商談をまとめるために土下座をしたり、しつこくしつこく食い下がる熱血ビジネスマンなどに、得意先の社長が「君の熱意に負けたよ」なんて優しい言葉がかけられたりしている。
確かに言われてみれば、オレも仕事で毎日、「お願い」ばかりをしているなという人も少なくないのではないだろうか。
「どうかお願いします(あなたには一銭の得にもならないけれど)」
「そこをなんとか!(無理なのはわかっているけど)」
これは利他の反対、利己です。特に仕事のうえで、特別な恩義もないあなたがどんなに頼み込んだところで、「どうか我が社のために」「私の営業成績のために」という姿勢では、相手のこころは動きようがありません。(はじめに より)
このような高野さんのお話を耳にしているうちに、なぜか20代のころ、とある有名SMクラブを取材したとき、女王様が「マゾの人ってすごくわがままなんですよ。あんまりひどいとこちらが“サービスのS”になるから嫌なんです」とおっしゃっていたことを思い出した。
ふざけているわけではない。SMというと単なる性的嗜好の話だと思うかもしれないが、実は双方の信頼関係があってはじめて成り立つコミュニケーションでもあるのだ。
女王様側の心情を無視して、「お願いします、叩いてください」と一方的に懇願するマゾというのは、自分の欲求しか頭にない。あまりにも利己的であり、興ざめする女王様もいるというのだ。仕事に対して真面目な人に限って、こういう状況に陥りやすい。
「上」からの期待に応えなくてはという強い責任感もあって、客や商談相手に一生懸命「お願い」をしているのだが、ハタから見ると、「会社のため」「自分の評価のため」に相手の事情などおかまいなしに物事を進める、「傲慢(ごうまん)な組織人」という印象を与えてしまうのだ。
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