結果として、運動体としてのトールはそれなりに優れたファミリーカーになっていると思う。ただしインテリアのデザインあたりを見ると、共感できる部分が少ない。大画面のタッチパネル式モニターを置き、それを軸にデザインしたと思しきセンター部の平面は、インパネ造形との整合性が皆無である。ダイハツの人は「タブレット的に見せたかった」と言うが、本当にそれを望むならインパネ全体を米Appleがデザインしたらどうなるか考えるべきだと思う。
しかし、タブレットは運転中の操作を前提としたユーザーインタフェースではないので、変にそれをフィーチャーしようとしたことに筆者は疑念を感じる。クルマ屋のプライドを持って、今やクルマにとって欠かすことのできないモニター経由の情報提示をどうしていくべきなのかを提案し、それで世界の自動車を変えていこうとする意気込みがほしい。
「アップルなんぞにクルマのことは分からない。クルマのITならダイハツを手本にしろ」と豪語してほしい。ブラインドモニターなど既に機能の一部はそういう提案になっているが、見せ方そのものはまだ然るべき進化をしているとは言えない。
ファンクションキーの操作で何でも見せられますというのは、情報のプライオリティを作り手自身が考えることの放棄だ。運転中に何を見せ、何を見せないのか。停止して何かを調べたいときに何をどう見せるのか。そういう人とクルマの関係性についてダイハツは世界屈指のプロではないのか? タブレットの真似をしている場合じゃなく、それはダイハツが切り開いていくべき問題だと思う。
なぜならトヨタの完全子会社としてトヨタグループの小型車開発を一気に引き受けるという責任は、子会社で部分的に協業してきたこれまでとは重みが違うからだ。トールの兄弟車であるルーミーとタンクは、冒頭に書いたようにひと月で3万5900台も売れた。これからダイハツが作る小型車は数万台単位で売れるものになっていくのだ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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