電車が遅れたらカネを返せ、はアリか?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2017年02月03日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


前々から問題視されていた東急田園都市線の遅延。2017年1月には通勤ラッシュ時間帯に連日の遅れが生じて大混乱を招いた(出典:flickr) 前々から問題視されていた東急田園都市線の遅延。2017年1月には通勤ラッシュ時間帯に連日の遅れが生じて大混乱を招いた(出典:flickr、Hirotomo Oi氏

 新幹線と高速道路。どちらも目的地に早く着くための設備だ。しかし、新幹線特急料金と高速道路料金の考え方はまったく違う。

 新幹線、およびJR在来線の特急料金は「目的地に早く着く」ためのサービス料金という意味合いが強い。普通列車より車両の設備が快適という要素もあるけれども、主に速達サービスだ。だから、サービスが低下したときは料金が払い戻される。JRの特急料金は、列車が定刻より2時間以上遅れると払い戻しになる。

 しかし、高速道路料金は目的地の到着が予定より遅くなっても払い戻しにならない。渋滞しても規定の料金がかかる。急いでいるからと高速道路に入ってみたら渋滞だった。「コンチクショー! 低速道路じゃないか、カネ返せ!」と思う。しかし返ってこない。高速道路料金は速達サービス料金ではなく、道路設備の使用料だからだ。

東海道新幹線のN700Aは回復運転のための新技術を搭載。かつては雪で長時間の遅延が風物詩だった東海道新幹線も、さまざまな対策で遅延時間は減少している 東海道新幹線のN700Aは回復運転のための新技術を搭載。かつては雪で長時間の遅延が風物詩だった東海道新幹線も、さまざまな対策で遅延時間は減少している

 鉄道の乗車券も、駅や列車など設備の使用料金だ。利用料金だ。だからわざわざ速達料金として特急料金を分離する。乗車料金は遅延しても返却されない。通勤電車が混んでいようと、遅延していようと、使用感に満足しなくても、利用したらおカネを払う。これは商売の原則で、覆したら経済は成立しない。映画館に入ったけれど、目をつぶっていたし、耳も塞(ふさ)いでいたからカネを返せ、という理屈は通らない。

 ときどき、こういう基本原則をひっくり返そうという人が現れる。通勤電車が遅れたらカネを返せ、という。これが一般利用者だったら、単なる愚痴(ぐち)の1つ。よく分かるわ、と共感を得て、あまり拡散されず霧散して終わり。しかし、国会議員が「カネ返せと提案する」とツイートしたら穏やかではない。愚痴に権利を乗せたら濫用につながりかねない。権力の番人と自負する報道機関は、こういう政治家の言動を厳しく監視すべきだろう。

 ネット世論が監視してくれるから、社会的制裁が先に与えられる。私も、今回はそれでいいや、と思っている。しかし、この発言の背景にある「遅延」は考えるべきだ。

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