日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
先日、日本のエンゲル係数が29年ぶりに高水準(25.8%)になったというニュースが注目を集めた。
学校で習った人も多いと思うが、エンゲル係数はドイツの統計学者、エルンスト・エンゲルによって発見された統計的経験法則。一般的に経済が発展途上にある時は係数が高く、成熟すると低くなるとされている。食費以外に支出をまわす余裕がなくなるので、「食べるだけで精一杯」という経済状況になるわけだ。
その係数がここにきてポコンとはね上がった、と聞けば、マジメに学校教育を受けていた人は、「そういやぜんぜん景気が良くなっている実感がないし、日本も豊かじゃなくなってきているのね」と思う。事実、このエンゲル係数が上がった事実を引き合いに出し、消費増税やアベノミクスの失敗を声高に主張している方もいらっしゃる。
ただ、今の日本社会では共働き夫婦が「夕飯つくるの面倒臭いから外食でいいや」という食費や、いわゆる「おひとりさま」が「料理しても余っちゃうからコンビニかオリジンの弁当にしよう」なんて食費があふれている。つまり、エンゲルが「法則」を発見した1800年代後半には存在しなかった消費スタイルが山ほどあるのだ。
だから、今回の上昇を「いや、欧米がうらやむ日本の豊かさの象徴だよ」なんて『スゴ〜イデスネ!!視察団』的なとらえ方をする人もいる。さる著名なエコノミストは、「ラーメン二郎」に長蛇の列ができ、ジロリアンなんて熱烈なファンが多数存在していることを引き合いに、「費用をかけて食を楽しむ人が増えたとみるべき」なんて分析をされていた。
立派な方が言うことなのだから、確かにそういう側面もあるのだろう。ただ、個人的にはこの「ジロリアン理論」にはどうもしっくりときていない。
人気ラーメン店に行列ができるなんてのは、バブル景気の時代もよく見られた。しかも、これは日本特有の現象というわけでもない。米国に上陸した二郎系ラーメンに行列ができたなんてニュースがあるからも分かるように、「食にお金と時間をつぎこむ人」はある程度成熟した社会ならばどこでも存在しているのだ。
ただ、なによりもモヤモヤしているのは、このエンゲル係数の上昇がこの10年あまり続いていることだ。実は日本のエンゲル係数は戦後からずっと減少してきて2005年度の22.9%を底に上昇基調に転じている。それが2015年にさらにポーンとはね上がって今回の高水準となったのである。
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