プリウスPHV パイオニア時代の終焉池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2017年03月06日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

現代の禁酒法 ZEV規制

 ZEV規制は1990年代にカリフォルニア州で始まった。2013年、全米8州がこのZEV規制合意書に批准した。これにより米国マーケットの25%が規制下に入り、前述のように巨額の罰金などの罰則規定が無視できない状態になった。この規制は各州がZEVと認める車種が全販売台数の中で一定の比率になることを求めるもので、例えば、トヨタ車1000台のうち45台はプリウス(他ハイブリッド)でなければならないという規制だ。

 しかも、今回の改変でトヨタは狙い撃ちされている。従来ZEVにカウントされていたプリウス(PHVでない普通のハイブリッド)がZEV枠から外された。2018年から実施される新しい規制では、実質的には電気自動車と燃料電池車だけがZEV枠としてカウントされることになった。かつ、PHVですら準ZEV枠扱いとなり、限定的にしかカウントされなくなった。

 さらに、この比率は年を追うごとに厳しくなることになっている。以下の一覧は2025年までのZEV規制のロードマップで、左端がメーカーの全販売台数における環境対策車のトータル比率、カッコ内は左がZEV(電気自動車と燃料電池車)、右が準ZEVのプラグインハイブリッドとなる。

2018年 4.5%(2.0%・2.5%)

2019年 7.0%(4.0%・3.0%)

2020年 9.5%(6.0%・3.5%)

2021年 12.0%(8.0%・4.0%)

2022年 14.5%(10.0%・4.5%)

2023年 17.0%(12.0%・5.0%)

2024年 19.5%(14.0%・5.5%)

2025年 22.0%(16.0%・6.0%)

 この規制値は限りなく絵に描いた餅で、GMやフォード、FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)がクリアできるとは到底思えない。誰も守れないヒステリックな規制はひっくり返る可能性がかなりある。ただし、悪法もまた法なので、ひっくり返ることに賭けて無策でいくわけにはいかない。自動車メーカーにとって、極めて難しい経営判断が求められる。資金と人のリソースをどの程度掛けるべきなのか、蓋を開けてみるまで分からない。

 トヨタとしてはまず、2018年の2.5%枠上限まで今回のプリウスPHVを絶対に売らなくてはならないし、PHVでは認められない2.0%の枠を満たす電気自動車を早急に開発しなくてはならない。遠い未来はともかく、現時点でのCO2対策の最適解はPHVかガソリンエンジン車であることは既に述べた通りなので、もはや法律のためだけに電気自動車を開発するようなもので、米国の規制にトヨタが振り回されているのが現状だ。

内外装ともにこれまでのコンサバ一点張りから意欲的な方向にチェンジしたデザイン。まだ地に足が着いていないが、くれぐれも元に戻ってはいけない。これをやり抜いた先に説得力のあるデザインが生まれるはずだ。ただし写真のオプション内装クールグレーは攻め過ぎ。ほぼ白の内装は光の反射で前が見づらい。安全にかかわる部分は抑制が必要だ。標準の内装色、黒の方が良い 内外装ともにこれまでのコンサバ一点張りから意欲的な方向にチェンジしたデザイン。まだ地に足が着いていないが、くれぐれも元に戻ってはいけない。これをやり抜いた先に説得力のあるデザインが生まれるはずだ。ただし写真のオプション内装クールグレーは攻め過ぎ。ほぼ白の内装は光の反射で前が見づらい。安全にかかわる部分は抑制が必要だ。標準の内装色、黒の方が良い

 筆者はトヨタ幹部の一人に、このZEV規制の先行きシナリオについての見立てを聞いたことがある。トヨタとしては当然第一にプリウスPHVを売ること、そしてバッテリー容量を十分に吟味した(それは大量に積めばOKという安易なものではない)電気自動車の早期開発を進めていく方針だと言う。では、規制がひっくり返る可能性をどうみるのか、それについてはあくまでも私的見解だと断った上で、2030年が規制の分岐点になると考えているらしい。製品が2030年に出るということは、逆算すると2025年の技術的到達点がZEV規制が続くかどうかの見極めポイントとなることになる。

 いずれにせよ、資金的にも人的にも、このZEV規制は、トヨタのリソースを呪縛する。穿った見方をすれば、米国マーケット対策に集中するために新興国マーケットをダイハツに任せることにしたとも考えられる状況なのだ。

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